教師の君に恋をした僕。ある日僕は君に言った。

晴雨雪

先生のことが好きです

君のことを考えるようになったのは突然だった。

最初は君に対して特に何も感じなかった。

けど、少しずつ話すことにより、僕は君のことを気になり始めた。


「美香先生は僕のことどう見てますか?」


僕は突然、教卓で仕事をしている君に訊いた。

君はとても困惑したような顔をする。


「突然どうしたの?」


そうだよな。

いきなり何を訊いてるのだろう。


「すみません、何でもな」


僕はそのまま話そうとしたが君が声を発した。


「それは一人の生徒としてかな?」


君は少し茶化すような感じで僕に訊き返してきた。

僕はそのまま肯定するか迷ったが、知りたいのはそのことではない。

君が僕を想ってくれてるのかを知りたい。


「そうではないです。僕が知りたいのは…」

「僕が知りたいのは?」


君がそう言った途端、僕はなんでいきなりそんなことを訊いてるのか分からなくなった。

今まで君を想っていても、決して行動には移さずにいた。

なのに、どうしていきなり行動に移したのだろう。

君と話していると、自分が分からなくなってくる。

それでも、逃げたくないとは分かっている。だが、僕は君から逃げた。


「すみません、なんでもないです。それより、僕の成績ってどんな感じですか?」


僕がそう質問した後、君は小声で何か言ったと思うが、何を言ってるか聞こえなかった。


「結城くんの成績はねぇ――一応大丈夫だよ」

「一応ですか…」

「うん、一応。提出物出してるし赤点だけはないから安心してね」


君は微笑んでそう言った。

僕は君のたった一つの行動だけで、胸が苦しくなった。

きっとこのまま君との会話を続けたら、頭が真っ白になり何をしているのか分からなくなりそうだ。足も少しだけ震えてきた。もう席に戻ろう。

けど、君とまだ話たい。


「結城くんごめん、職員室に忘れ物したから取ってくるね」


そのままそう言って、君は教室から出た。

僕は君が見えなくなってから自分の席へと戻り、大きく息を吐いた。

緊張した。ここまで長く話せて凄く楽しかった。

けど、戻ってきてまた話たら、頭がおかしくなりそうだからやめよう。

僕は職員室から戻ってくるのを確認したが、話しには行かずに本を読み始めた。

けど、全く集中できない。先程の高揚感が抜けない。

そんなことを考えていると僕は君に名前を呼ばれた。


「結城くん、このプリント配るのお願いしてもいい?」


僕はすぐに本を閉じ、君のもとに向かった。


「本読んでたのに申し訳ないけど、お願いできる?」

「切り良かったので全然問題ないです」

「そっか、ありがと」


先程と同じように、また微笑んで言った。

君は本当に僕の心を動かすのが上手い人だ。

僕はプリントを受け取り、そのまま列の人数分配り始めた。

特に大変な作業ではなかったので、すぐに終わったが一枚だけプリントが余り、そのプリントにはこう書かれていた。



『今日の放課後手伝って欲しいことがあるから、職員室まで来てほしいな』



僕はすぐにそのプリントを持って、君の元へと向かった。


「配りました。けど、これって」

「ありがとう。今日ってもしかして用事あったり?」

「いいえ、ないです」

「そっか、無理にとは言わないから、気が向いたらで大丈夫だよ」


彼女がそう言った途端、チャイムが鳴り授業が終わった。

僕は訊きたいことがあったが席に戻り、あいさつをする。

彼女は次の授業があるため、すぐに教室を後にした。


※※※


放課後、職員室へとすぐに向かった。


「ごめんね、呼びたして」

「全然大丈夫です。気にしないでください」

「そう言ってくれて、ありがとね。それじゃ、運んでもらいたいものあるから着いてきて」


僕は君の後ろを歩いた。

ただ後ろを歩いているだけなのに、なんだか凄く楽しい気持ちになってくる。


「何度もごめんだけど、今日本当に用事とかなかった?」

「はい、特に何もないんで大丈夫です」

「それなら良いんだけど、時間使わせちゃってごめんね」


そう話しているうちに、君は歩くのを止めた。

君が立ち止まった場所は僕のクラスだ。


「ここですか?」

「うん、ここ」


そう言い、教室のドアを開けた。

放課後で誰も居ない教室はとても静かだ。

そんな教室に一体何の用事があるのだろうか。

教室に入った君はそのまま教卓へと向かったので、僕は君に着いて行く。

そして、君は深く深呼吸をしてから、僕へ問いかけてきた。


「授業で私に訊いたこと、もう一回誤魔化さずに訊いてくれない?」


僕は戸惑った。けど、放課後呼び出してまで行うため、何かしらの理由があると思い、授業で君に訊いたことを再び声に出した。


「美香先生は僕のことどう見てますか?」

君は授業の時と同じように返答した。

「それは一人の生徒としてかな?」


僕は戸惑った。君は一体何をやりたいのだろう。


「あの、何がやりたいのですか?」

「授業で私に訊きたかったこと、成績なんかじゃないよね」

君からの真面目な返答に僕は驚いた。

「本当に訊きたかったこと――」

「そう、本当に訊きたかったこと」

「それは――」


僕は息を深く吸って、出会った時のことを少しだけ思い出した。

あの時はこんな気持ちになるなんて想像してなかったな。


「僕が訊きたかったことは――」


もう覚悟を決めよう。

どうせ、行動しても行動しなくて変わらない。

君の優しさなら、これからも話してくれるはずだ。


「美香先生、僕が本当に訊きたかったことは、僕のことを男としてどう見てくれてますかです」


君からの返答はすぐには聞こえてこなかった。

けど、君の瞳からは水滴がこぼれ落ちていた。


「結城くんは私のことどう見てくれてるの?」

「それは一人の教師としてですか?」


僕はあの時、君からの返答を真似した。


「もう、意地悪しないでよ」

「すみません、美香先生がとても可愛かったので」

「もう一度訊くね?結城くんは私のこと女性としてどう見てくれてる?」

僕は君からの言葉を大切に聞き、すぐに今の気持ちを伝えた。

「好きな女性、付き合いたい女性です」

「私もね、結城くんと同じだよ。好きな男の子、付き合いたい男の子――結城くんのことが好き」


僕は今まで雪のように積もってきたこの気持ちが、君の言葉一つにより一瞬にして溶けた。

そして、君は先程よりも酷く涙を流し始める。


「結城くんのことが好き。けど、教師と生徒だから…」

「大丈夫です。僕がこの気持ちが変わること絶対にありません」


君は泣きながら、上目遣いで僕に言った。


「ほんとに?」

「はい、本当です」


君はそれでも不安な気持ちがあるのか、暗い顔を僕の胸に持っていった。


「本当ですから、泣かないでください」


君は僕の胸の中で声を出し、更に泣き始めた。

僕はそれと同時に優しく、だけど君にとっては力強く感じられるように抱きしめた。

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教師の君に恋をした僕。ある日僕は君に言った。 晴雨雪 @Seiuyuki

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