7.

「…………誘拐、か。犯罪者になっちゃうなー、俺」


 しばらく言葉を頭の中で反芻し、その意味をようやく飲み込んだ俺は、椅子の背もたれに背中を付ける。


「別にそうならないとは思うよ? だって誘拐犯を親が知ってるんだから。それも同級生だし」


「だったらそれは誘拐にならないんじゃない?」


「そうだね。家出補助とか?」


「それはそれで犯罪になりそう」


「まあそうかも」


 ピピピピ……ピピピピ……。


「行ってくる」


「うん。お願い」


 手元のベルが同時に鳴り、俺は一度席を立って二人分のうどんをテーブルに運んで座る。


「ありがとう。いただきます」


「……いただきます」


「……うん。おいしい」


「で、なんで誘拐を頼んだのかは教えてくれるのか?」


「今はまだ話したくない」


「わかった。話したくなるまで一緒にいてやるから、その時にまたよろしく」


「……」


 彩紗はなぜか急に黙りこくって、うどんをすすっている。


「ん? どうした?」


「いや、誠吾ってっぽいなって思って」


「は?」


「あんまり女子にそんなこと気軽に言わない方がいいよ? あんまり聞いたことないけど、高校のときとかどうだったの? その、交友関係とか」


「まあ高校入ってから部活始めたし、クラスでも何人かでまとまって遊ぶことはあったけど」


「で、女子は?」


「部活の友達で数人」


「その子たちから何かアプローチは?」


「あいにく全員彼氏持ちだったよ」


「ふーん。で、大学は?」


「なんでそんなに俺のこと聞くんだよ」


「まあいいから」


 彩紗はたしなめるように、俺に話すように促す。


「結局まだサークルとか入ってないし、学部の友達も、まあ数えるぐらいしかいないからなー」


「ふーん……」


 満足したのか、彩紗はストローで水を飲む。


「これからどうするの?」


「さあ」


「さあ、って、何か決めてるんじゃないのか?」


「私は一応、候補を決めただけで」


「さっきだって、ほら、スマホを見て確認してただろ?」


「あれは時間を見ただけ。勢いで出てきたから腕時計忘れちゃったし、それに、その…………お腹空いてたから、気になってただけ」


「それで遊園地から出ようって催促してたのか」


「……ごめんなさい」


「まあいいけど。で、その候補、他に何があるんだ?」


「え?」


「とりあえずその中で何か一つ、やろう。俺もそれやってる間に色々考えるから」


「……わかった。考えながらできて、今の時間からもできて、それでご飯後にもできるやつ…………あ、これとか?」


「……ゲーセン? 時間つぶしにはなるだろけど、お金飛ぶよ?」


「そっか…………じゃあこれは?」


「観覧車、か。てかそれってもしかしてさっきまでいた遊園地の?」


「うん。再入場はタダだし、この時間は空いてるって、ほら、このサイトに」


「……確かに、じゃあ戻るか」


 俺たちは下りのエスカレーターに乗った。

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