6.

「で、次はショッピングモールか。買い物するの?」


 遊園地に隣接するショッピングモールに歩いてやってきた俺たちは、エスカレーターに乗っていた。


「ううん。フードコートに行こうかなって」


「そういえばもう夕方の五時か。晩御飯にしてはちょっと早い?」


「でも六時になったらどこも混むよ?」


「それもそうか。じゃあ席取りしとくから、見てきていいよ」


「ありがとう。でも誠吾のは?」


「おまかせする」


「わかった。任せて。じゃあこれ」


「ああ……って、重っ!」


 彩紗から荷物を受け取ると、別に地面に落としていないのに、ドサッという音がした。両腕にかかる負担は計り知れない。


「じゃあ行ってくるね!」


「あ、ああ……いってらっしゃい…………」


 彩紗が離れていき、俺は対面がソファー席になっているテーブルの椅子の方に座る。四人席が空いており、空いていたため隣に自分の荷物を置いて、ソファーの人席に彩紗の荷物を置く。


 まさかこれを背負って平気な顔をしていたのか。昔から運動神経はいい方だったけど、ここまで力があるとは。にしても中に一体何が入ってるんだ? 別に飲み物を飲むときとか血毛と代を払う時とか、こそこそ出しているわけじゃなかったし、ちょっとぐらいは。


「お待たせー……何で前のめり?」


「あ、いや、座り直そうと思っ、て……」


「はい、誠吾の分の呼び出しベル。うどんにしたよ」


「ありがとう。彩紗も?」


「うん。まあまだまだ長いし、軽めにね」


「長いんだ……」


「ねえ」


「何?」


「この荷物、気になる?」


「まあ、気になりはする。あんなに重い荷物持ってたなんて知らなかったし、それぐらいなら俺が持ったのに」


「ううん、さすがにそれは悪いよ」


「それに……」


「それに?」


 悩んだ末に、俺は彩紗に問いかける。


「こんなに大きな荷物を持って俺を連れて回って、本当に何か俺に出来ることはないのか? 正直、俺は彩紗を助けられる自信はない。だけど、少しでも力になりたい。だから、先に話してくれた方が、心づもりはできるから」


「…………誠吾は、優しいよね」


「えっ?」


「だって、私がこんなめんどくさいことされたら、絶対にうざったく思うし、途中で帰ると思う。ここまでの遊びが楽しかったとしても、絶対に一緒に夜を越えようとは思わない。でも、誠吾はその先のことも考えてくれる。だから、もう私決めた」


「……」


 目の前で真剣なまなざしを向けてくる彩紗に応えるように、俺は目線をぶつけて言葉を待つ。


「私を、誘拐してください」


 彩紗はそれだけ言い切ると、口をもごもごさせて俺の返事を待っているようだった。

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