5.
「あー、楽しかった。もう一回乗りたい、けど無理だよな」
「うん。プラン的にはもうそろそろ」
スマホに目を向ける彩紗。どうやら予定は前もってある程度立てていたようだった。
「えー?」
「それも誠吾が髪切りに行ってたのがいけないんだよ?」
「そこを何とか、もう一個だけ乗って出ない? 入園料千五百円でジェットコースター一つは、さすがにもったいないし」
「でも並んでないところなんて……あ、あれか」
彩紗と同じところに目を向けると、メリーゴーランドがスカスカの客入りで回転しているのが見えた。
「メリーゴーランドか。いいじゃん」
「いいの? ジェットコースターじゃなくて」
「遊園地ならでは感あるじゃん!」
「ふふ、そうだね」
「なんかおかしい?」
笑いをこらえながら反応する彩紗に問いかける。
「いや、すごい子どもっぽいなって」
「あ…………」
「ぷっ、あはは! そんな露骨に黙らなくてもいいじゃん」
彩紗は耐えきれず吹き出す。
「だ、だって……」
「ほら、メリーゴーランド行くんでしょ?」
「……うん」
こんな子どもっぽい俺が出るのも、きっと彩紗の前だけなんだろうな。
メリーゴーランドの前に着き、すぐに案内される。
「どれ乗る?」
「馬に馬車にカボチャに……うーん、せっかくだし、本場の馬に乗る?」
「じゃあここにしよっか」
彩紗は茶色の馬の背にまたがり、俺は白い馬に乗る。
「おおー……」
「どうした?」
「いや、小さいころ乗った時って足が届かないからさ、すぐ落ちそうになって怖かったんだよね。でも今は普通にまたがれるなって」
彩紗は足をバタバタさせる。時折靴が馬のお腹に当たり、痛そうだなと思ってしまう。
「確かに。でもちょっと不安じゃない?」
「まあ、確かに」
「別の所移る?」
「ううん。ここがいい」
「オッケー……お、動き出した」
「……ジェットコースター乗った後だとさ、ゆっくりに感じるよね」
「まあコーヒーカップじゃないし、そんな高速回転はしないでしょ」
「そうだね」
「……大丈夫? めっちゃがっしり掴まってるけど」
「うん」
「もはや馬の首に抱き着いてるけど」
「大丈夫」
目線をこっちに向けないまま固まっている彩紗が面白く、俺は上着のポケットからスマホを取り出して向ける。
「はい、チーズ」
「いえい」
「えっ」
彩紗はこちらに気づくと、片手を離してこちらにピースを作る。
「ありがとう。後で送ってね」
「……」
「何? 不満そうにして。もしかして私が怖がってるとでも思ったの? ざんねーん」
「だって珍しかったから」
「こうでもしたら、写真撮ってくれるかなって思っただけ」
「そんなの、撮ってって言ってくれたら撮るのに」
「ごめんごめん。もうそんなに拗ねないの」
「拗ねてない」
「ふふふっ」
ご機嫌に笑う彩紗が向けるスマホに、俺はピースを作った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます