4.

「結局それだけでよかったの?」


「別に誰かに買うわけじゃなかったからね。可愛いでしょ? エイのキーホルダー」


 彩紗がカバンに付けられたエイのキーホルダーを揺らし、ともについている鈴が小さく鳴る。


「まあいいか。で、次はどうするの?」


「次はここ。遊園地」


「……まさか一日で娯楽スポット全部制覇しようとしてない?」


「そんなことないよ。二日間で制覇できたらどれほどよかったか」


「その気はあったんだ……」


 さっきと同じようにチケットを買って中に入ると、にぎやかな音楽に迎え入れられる。


「すごい。ほんと久しぶりだな」


「あんまり高校のときとか行かなかった感じ?」


「まあ、男子だけで行こうとはなかなかならなかったな。つるんでた人間が絶叫系苦手な人多かったし、遊び場所の候補にもならなかった」


「え、でも誠吾絶叫系好きでしょ?」


「昔の話だけどな。それこそ、中学生の時に二人でここに来た時に乗って以来かも」


「そっか。じゃあせっかくだし、あそこ並んじゃう?」


 彩紗が示した先には、休日にしては短い長さの列ができていた。


「三十分待ちか。まあそれぐらいは待てるか」


「じゃあ早いうちに並んじゃお!」


「ちょっと、あんまり引っ張るなっ」


 手を引かれて、列の最後尾に並ぶ。間もなく、すぐ後ろに団体客が詰め寄せる。


「運良かったね。私が引っ張ってよかったでしょ?」


「まあな。にしても、この遊園地も人増えたよな」


「そうだね。入園料も値上げしちゃって、気軽に来れなくなっちゃった」


「あれから、もうそんなに経ったんだな」


「……そうだね。何年も前のこと、私はあんまり覚えてないな」


「思えば、あのときぐらいか、暫く二人で出かけなくなったのは」


「うん。また次遊ぼうねって言ってから、それぞれ忙しくなっちゃったもんね。誠吾は部活でレギュラーになったし、私は高校受験のために塾に行くようになってさ」


「でも、こうやって今一緒にいられるんだから、よかったよな」


「……うん!」


 彩紗は心の底から嬉しそうにこちらを見上げて笑う。


「彩紗」


「何?」


「今更って言うかもしれないけど、聞いていい?」


「いいよ。今答えられることなら」


「付き合ってる人とか、いないよな?」


「うん。今まで誰とも、お付き合いしたことはないよ」


「そっか。よかったー……」


「…………あの、その真意は?」


「いや、もし彼氏持ちでその彼氏に浮気されたとかだったらどうしようとか思っただけ。修羅場は怖いからなー」


「……は?」


 何かの逆鱗に触れたのか、彩紗はなかなか聞かない程の低い声を出す。


「え、どうしたの? そんなすごい形相して」


「……まあいいや。誠吾に期待するだけ無駄だったかなって」


「いや、結構重要なことだよ。だって彩紗が笑った顔見るの好きだけど、それは彼氏いるなら彼氏のものだよなって思っただけで、別にっ…………あのー、彩紗さん?」


「……」


 彩紗はうつむいたまま動こうとしない。


「彩紗さん、あの、前」


「えっ、ああごめんなさい!」


 彩紗は慌てて列を詰める。僕もそれに倣って小走りで前まで詰めた。

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