2.

「お待たせっ……はぁ、はぁ」


 荷物をまとめてマンションの外に出ると、彩紗が手でこちらを扇いだ。あまり風は来ていない。


「そんなに息を切らして、ありがとう。私のために急いでくれて」


「いやいや。そんなに急いでないって」


 いつも大人っぽい彩紗の前では、どうしても強がってしまう。


「で、どこ行くの?」


「とりあえず、駅に」


 歩き出す彩紗に続いて、さっき歩いてきた道をたどる。


「何持ってきたの?」


「財布とスマホと、あとお菓子。着替えは一日分持ってきた」


「ふーん」


「……聞いておいて興味ない?」


「そんなことないよ?」


「じゃあそっちも教えてよ。リュックサックなんて背負ってるの、修学旅行以来に見た」


「えー? 言わないとダメ?」


「着替えぐらいは、どれくらい持ってきたのか教えて欲しい。足らなかったらどこかで買うし」


「……私も一着だけだよ」


「ほんとに?」


「それは本当。別に気遣ってない」


「……まずどこに行くの?」


「内緒」


「またそれ? せめて電車に乗るのかは教えてよ」


「電車は乗る」


「だったらいいけど」


 ちょうど駅の改札に到着し、改札を通る。


「……こっち」


 彩紗について行き、人が多いホームに移る。ちょうど到着した電車に乗り、二人用のボックス席に座る。


「さっきまでどこ行ってたの?」


「ちょっと、髪切りに」


「あー。セットした?」


「まあ、少しだけ。あんまり好きじゃないけど、担当の人がしたがるから」


「誠吾は、おしゃれした方がいいよ。その方がかっこいいし」


「それはどうも。どうせ歩いてたらへにゃるだけだし」


 内心では嬉しい気持ちがあるものの、やはりそっけなくなってしまう。


「それに、良い匂いするし」


「わっ」


 急にこちらに顔を近づけてきたので、思わず声を出して距離を取る。


「そんなに声出さなくても」


「いや、驚くよ。流石に。つくかと思った」


「何が?」


「………………それは」


「着いたよ」


 駅の一つに着き、俺の言葉を耳から遮るように立つ。


「ちょ、ちょっと待って!」


 僕は急いで荷物を背負って電車から降りる。


「あははははっ…………慌てすぎ!」


 声を上げて笑う彩紗を前に、僕はリュックサックを背負い直す。


「で、ここからは?」


「乗り換えます」


「また電車ー?」


「ほらほら、文句言ってないで行くよー」


 俺たちはホームの階段を上がった。

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