第11話 コラボの報告配信
チカリと録画中を意味するライトが点灯して、俺の本日2回目の配信が始まった。
[MitsuyaCyber: 待機~]
[硫化アリルマシマシ: たいき]
配信前の待機時間を待っている視聴者から、コメントがすでに書き込まれているのが見て取れた。
普段と比べると少しばかり多く感じるのは、今日の1回目の配信で報告のための配信枠を示唆して終わったからかもしれない。
「ミツヤサイダーさん、硫化アリルさん、配信待機ありがとうございます」
[氷冷狐サワー: taiki!]
「狐サワーさんもありがとうございます。なぜにローマ字」
[氷冷狐サワー: へんかんみす]
数秒で、狐サワーさんからは返信となるコメントが書き込まれた。
そのコメントにもツッコミどころは多いが、今日の配信には彼女以外にも来てくれている人がいるのだから、彼女にばかり構っているわけにはいかない。
「今日2回目の配信となっていますが。今日の昼の配信を見てないよ、という人のために説明すると。ダンジョン攻略配信中にアクシデントに遭遇したんですよね」
そうして、今回の配信の経緯を簡単に説明していく。
大型のモンスターとの戦闘中、運悪く低ランクの探索者にヘイトが向かってしまったこと。
その大型モンスターを討伐したところ、襲われた探索者が配信者だったこと。
「そういうわけで、くだんの配信者とコラボ?というか協力?していくことになったんですよ。もちろん今日のこの配信で、じゃないですけど」
もちろん、プライベートな関係(不純な意味じゃない)があることに関しては触れない。
いずれ話すにしても、自分勝手に決めていい話ではないだろう。
[ナナ★テントー: 今北産業!...って言い方、もう古い?]
[氷冷狐サワー: へーそーなんだー]
[ハルカ: >>テントーさん。今日の前の配信で出てた子と、今後も付き合いがありそうって話]
[MitsuyaCyber: 相手の情報plz]
「相手の情報か……。まあチャンネル名くらいは言ってもいいのかな?」
そんなことを言いつつ、配信画面を開きながら、WeTubeの検索画面を開く。
『珠城マキ』と手早く入力すると、チャンネルといくつかの動画がヒットした。
自殺系とも揶揄されるWeTuberらしい、刺激的なタイトルが並ぶ。
「珠城マキって名前でWeTuberをやっている人だよ」
[硫化アリルマシマシ: 珠城マキの情報、至急キボンヌ]
[ナナ★テントー: 自分でggr定期]
少し時間が経つと、すぐに視聴者の中からマキの配信ページに辿り着くものが現れた。
[ハルカ: 今、調べた限りいわゆる自殺系?]
[氷冷狐サワー: 珠城マキ、20XX年9月より活動開始。いわゆる自殺系のWeTuberとして登録者数は数万人。これは界隈では多い方。丁度サブチャンネルを新設した。ってウチの執事が言ってる]
[MitsuyaCyber: でた。ウチの執事w]
[ナナ★テントー: 速すぎて草。ウチにもそんな執事欲しいわ]
狐サワーはどうやら大変裕福らしく、執事なんてものが家にいるらしい。
これまでの配信コメントでも幾度か触れていることもあるが。何より執事というインパクトのせいで、俺どころか視聴者からすらも把握されている。
しかし、彼女(正確には彼女の執事)がまとめた情報には、見逃せない俺が関知していなかった事柄が一つ含まれていた。
「え、今日のことなのに、もうサブチャンネルなんて作ってたの?」
たしかに、珠城マキのチャンネルページには、サブチャンネルの項目が存在していた。
曰く、『珠城マキ / Maki Tamakiのガチ攻略ch』。
ちなみにメインチャンネルの名前は『珠城マキ / Maki Tamakiの突撃攻略ch』となっている。
突撃攻略というのは、自殺系探索者の隠語のようなものだ。
流石に彼ら彼女らにしても、自ら自殺系を名乗ることはしていない。あくまでも突撃攻略を行うというテイになっている。
[氷冷狐サワー: ですです]
[MitsuyaCyber: 執事におんぶにだっこなのに、どの口で言ってるんだ...]
多分、マキとしては、ここで新規一転して、人目を引くことよりも安定した攻略系のWeTuberを目指したいという考えなのだろう。
WeTuberなのに安定とは?と言いたくなるが、実際、自殺系よりはよっぽど安定するはずだ。
そのうえで、従来の路線からは大きく離れることも、また確かだ。
なのでこのサブチャンネルの創設は、どんな層であれ視聴者に配慮した投稿を行っていきたい、という彼女なりの誠意なのだろう。
「今後、どんな感じで向こうさんと付き合っていくかとかは、まだ決めていないので。まあとりあえず明日の撮影協力から、という感じですね」
[氷冷狐サワー: うう、なんだかアキトさんを取られた感じがする...これがNTR??]
[ハルカ: やめましょうね、サワーさん]
[硫化アリルマシマシ: ユニコーン喪女やめれ。厄介オタになっとるぞ]
あまり考えていなかったが、確かにコラボには一定の反感を抱く層もいるのかもしれない。
俺の方の配信者は、半分冗談の域だろうが。マキの方は必ずしもそうはならないだろう。
どこまで踏み込んでコラボするかなど。ここら辺の調整は、事前にしておいた方がいいかもしれない。
ジョンリーダーズでも、幾度もそういうコラボ企画に立ち会ってきたが。そういう部分はリュウガが(やけに)乗り気だったこともあって任せていた部分も多い。
いやむしろ、あれは視聴者に邪推されている方の目的が大きかったのかもしれないな。
今日の一連の騒動の報告を兼ねた配信が終わったら、すぐにでもマキに連絡を取ろうと、俺は心に決めたのだった。
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