第10話 みつめるミツネ

「ジョンリーダーズって、ダンジョン探索系WeTuberでも超大手じゃないですか?!」


 俺がジョンリーダーズに裏方として所属していた時の名刺を見せた、マキこと牧原多万喜のリアクションは、お手本のように大仰なものだった。


 こういう反応を見ると、俺が元いた集団の影響力というものをひしひし感じることができる。

 登録者数が100万を超えているようなWeTuberであれば、そこらへんの一般人でさえ知っている可能性があるのだ。


 しかし、あくまでもジョンリーダーズの裏方でしかなかった俺にとって、そのマキの反応は新鮮なものだった。

 ジョンリーダーズが有名なのであって、俺は有名ではない。

 今、マキに見せた名刺だって、前に使ったのがいつなのか思い出せないくらいだ。

 それくらい俺は、ジョンリーダーズの片翼を担う一員としては、世間の目に晒されていなかった。



「大手って言っても、ただの裏方の撮影役だし。誰がやってもそんな大差ないよ」

「そんなことないです! だって、こんな構図もサワダさんが撮ったんですよね?」


 そういって、マキは手早くスマホを操作すると、動画リストを見せてきた。

 ジョンリーダーズの動画リストだ。

 言いたいことはわかるが、すでにクビになった身としては、元居た場所の功績を見せられても素直には受け入れがたい気分になってしまう。


「そうだけど。でも、よくある構図だよ」

「でもも何も、それってプロの構図が撮れるってことですよね? すごいことですよ!」

「プロの構図って、そんなもんじゃ……」


 いや、それで給料をもらっていた以上、プロではあるのだけれど。

 改めて言葉にされると、こそばゆい。



「私、前はこういうの撮れたらいいなって憧れてたんです。企画だけ考えちゃったりして。でも、この自動追尾のカメラじゃあ、そんなの無理じゃないですか」

「たしかに限界はあるね」


 マキが連れていたカメラは、勝手にユーザーの背後を追尾する機能が備えられたドローンだ。

 ただ、このドローンには自動稼働ゆえの限界が存在している。


 画角などの構図に制限がある他。モンスターとの戦闘時など、必ずしも動きに追随できず良い絵を撮ることができなかったり、というものだ。



 実際、一般的な自動追尾型カメラは、初心者でも手が届く価格と言えども、十分に高価な部類の機器であるため。良くも悪くも勝手に安全圏を確保して撮影を行う傾向にある。

 当然、戦闘時などには顔どころか影も形も映らなかったり、ということが多発してしまう。


 そこで本職のダンジョンカメラマンは、ドローン撮影機を手動で操作している。

 探索者の動きに追従できるのは当然としても。よりよい画角であったり、顔がきちんと映像に収まる構図であったりを追求しているのだ。


 最終的には、より直感的な操作のために魔法で操縦したり、複数のドローンを同時に操作したり、ということになっているのだが。それは、今はおいておこう。




「だから、何を言いたいかというと……。それができるっていうのはスゴいってことです! そんな卑下しないでください」

「そうかな……。いや、そうかもしれない」

「そうです、スゴいんです!」


 俺はこれまで、自分には異世界に由来する戦闘能力くらいしか誇れるものはないと思っていた。


 学業関連は中退してからはもうトンとご無沙汰で、定職にもついていない。

 ジョンリーダーズでやっていたことだって、所詮バイトの延長線上くらいのものなのだと。


 対して、撮影技術というのは、努力の成果だ。

 勇者としての戦闘能力なんて言う、ある意味、運だけで手に入れたものとはわけが違う。


 俺は、たまに自分の配信で戦闘能力を褒められるのとは、まったく違う充足感を感じていた。


「だったら、なおさらしっかり準備しないとな」

「ええ。一緒に動画を撮れるの、楽しみにしてます」



 ◇



「お嬢様。お楽しみのところですが、耳よりの情報が……」

「ワタシ、今アキトさんの配信待機で忙しいんだけど?」

「ですが、そのアキト様のことでございまして」


 タブレット端末で動画投稿サイトWeTubeに張り付いていた少女、氷ヶ峰ヒガミネ御ツミツネはチラリと黒目を動かした。


「へぇ、それで?」

「なんでも、アキト様がジョンリーダーズの仕事から離れられた、と」


 ミツネは数秒の間、パチリと目を見開いた。


「配信ではオクビにも出してなかったわよ! ていうか。あの連中、やっとアキトさんを手放す気になったってわけね!」

「いえ、それが。リュウガ氏の方から離脱の要請があったとのことで。つまり、前の配信ではクビになったことをオクビにも出していなかったというわけですな……イエイエ」

「はあ?」

「申し訳ございません」


 執事に一瞬だけ殺気を向けたミツネは、しかしそれを上回る上機嫌となっていた。

 弾むような口調で、独り言をつぶやき始める。


「っていうことは、アキトさまは今はフリーってことよね? だったら……」

「お嬢様、そうこうしている間に、アキト様の配信が始まりますぞ?」





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