第9話 アキトの思惑
ぶっちゃけて言えば今のマキ、牧原多万喜に腐っても攻略組の一員である俺に見合うだけの対価を支払うことは不可能だ。
だから、これは一種の投資だ。
探索者なんてやってる時点で、博打みたいなものではあるが。
彼女のある程度の成長をサポートすることで、何かしらの人脈となることを期待している。
覆面に身を隠した怪しい人物である俺が、何か重要な仕事を担うためには、覆面越しでも信頼されるだけの関係が必要だ。
そういう場面に呼ばれるには、親しい人物に紹介をされる、というのが一番。
そのための投資なのである。
実を言うと、初めてではない。
ジョンリーダーズと関わったきっかけも、今回と似たようなものだった。
俺が彼らを助けたことを契機に、チームを組み、そうして着々とWeTuberとして成長して……。
その結果が、アレか。
いや、今考えることじゃない。
むしろ、今の彼らから鑑みるに、『そこまでの状況じゃなかった』、『勝手に助けてきて、恩を着せてきただけ』、『自分でなんとかなった』……とでも、感じていたのだろう。
自分から非を認めて、『助けてもらった』と表現し、お礼をしようとするマキとは、全く違うはずだ。
「なら、なおさらだ。見た通りに、俺はそこそこ戦闘には自信があるからな。協力者として悪くないだろ?」
断片的ながら自身の事情を口にしたマキに、俺はもう一度、詰め寄った。
「もちろん、協力してくれるというのは、ありがたいんですが……」
「ですが?」
「どうしてだろ、なんだか納得できない自分がいるんです。助けてもらった側のクセに、自分勝手、ですよね」
マキは俺と視線を合わせなかった。
「たしかにこんな場面で迫っても、押し売りみたいなもんか」
俺はそう解釈した。
「実を言うと、あのティラノがマキのもとに来たのだって、俺が無関係じゃないんだ」
そう言って俺は、あの大型恐竜モンスターが、そもそも俺と戦っていた相手で、途中戦闘が長引いた隙にマキの存在を感知して襲撃に繋がった、という話を続けた。
いや、誰かが言ってたけど、側から見るとホントにマッチポンプみたいになってるな。
自分の非を付け加えることで、押し売り感を減らそうという試みだ。
俺はこの状況に、なんだか強いデジャヴュ、既視感を覚えていた。
たぶんジョンリーダーズと初対面の状況を、つい先ほどの思い出していたからだろう。
丁度、あの時も、俺は同じように助けるような状況を作ったそもそも原因は俺にもあった、と言う話をして……。
「でも、それってダンジョンの規則的には何の非もないですよね」
それまでの、
動画もあるんだからと、パキパキと俺の主張を否定していく。
「あとティラノじゃなくてアロサウルスです」
と、それから小さく付け加えた。
恐竜って流行ってるんだろうか。
「どうして、そうまで私に協力しようとするんですか」
いつのまにか、立場が逆転しているかのようだった。
借金をしていると立場が弱いものだが、その額が大きくなりすぎると、逆に借りている側がイニシアチブを握り始めるようなものだろうか。
「あーいや、下心がないわけじゃないんだ。俺って、こんなだからさ。顔を出せないだろう? だから、覆面ありでも紹介してくれるような関係が必要なんだ」
「……そう、ですね」
マキは一瞬悲痛そうな顔を見せたが、すぐに表情を消した。
「わかりました。力を貸してもらう代わりに、私の信用を貸せばいいっていうことですよね」
「ああ」
俺の手を取って、マキは無意識の上目遣いで言った。
「お力添えを、よろしくお願いできますか」
◇
ウエノダンジョンは縦長の巨大な空洞のような構造だ。
そのため移動には何かしらの飛行手段があると都合がいい。
カハク異蹟の翼竜はその一例で、一応はウエノダンジョンのほとんどの異蹟で移動手段は確保可能だが。翼竜は現在の探索範囲内の味方モンスターでは、もっとも広範囲にかつ迅速に移動ができるとされている。
ただし、じゃあ翼竜を仲間にしたから、他のダンジョンでも空が飛び放題かと言えばそんなことはなく。ウエノダンジョン限定のショートカットのようなもので、連れ出したりすることはできない。
「じゃあ、とりあえず翼竜を捕まえようか」
俺とマキは、そんな翼竜の営巣地に来ていた。
カハク異蹟でも外縁部、切り立った崖のようになっている地域だ。
そこにどこから集めたのか、あるいは元からあったのか、枝葉で作られた鳥の巣に似たカゴのような巣が造られている。
もっとも、巣があっても卵を産んでいるわけではないので、単なるモンスターとしての生態かもしれない。
「あ、ちょっと待ってください」
さっそく手頃な翼竜を探そうとしていた俺を、マキは引き止めた。
手元にはライブ配信用のカメラがある。
端末の操作を行なっていて、動画撮影の準備を行なっていた。
俺の幼馴染は、いつの間にやらストリーマーが板についていたらしい。
翼竜のテイムの様子を撮影して動画にしようという魂胆だろう。
「撮影するのか?」
「これでも、一応WeTuberなので」
しかし、こっちも一応金盾クラスの動画配信に関わっていた人間だ。
出演していたわけじゃないが、撮影には一家言あるつもりだ。
今後もマキと関係を保つことを考えると。どうせなら、その俺の特技を生かしたほうがいいんじゃないだろうか。
そうして、俺の出した結論は。
「なあ、明日にしないか」
「……何か問題があるんですか?」
当然のようにマキは訝しんだ。
たしかに、マキとしては結構苦労してここまで来たから勿体ない、という気分なのだろう。
「どうせ撮影するってことなら、色々機材を揃えたいと思ってさ」
「そう言えば、配信してましたね。でも、ソロライブ配信なんて大体おんなじような機器なんじゃ?」
「いや、それはソロでやるならって話だな。実は一応、こういう仕事をしてたんだ。……もうクビになったけど」
そう言って、俺は一応持っていたジョンリーダーズのスタッフ名刺を取り出した。
「え、えぇっ!!!」
そのマキの反応は、これまでで一番、俺の想定通りだったかもしれない。
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