第5話 救出劇
カハク異蹟にはさまざまなモンスターが現れる。
原生哺乳類の姿をもじったモンスターや、カンブリアモンスター型モンスターなど、多岐にわたる。
中でも、やはり代表的なものは恐竜型モンスターだろう。
巨大直立トカゲという、一般的な恐竜のイメージを形にしたモンスターたちはビジュアル面で人気がある。
ちなみに彼らは太古の姿を再現したもの、というわけではなく。あくまで人間が思う恐竜のイメージをもとにしたモンスターだ。恐竜に羽毛があったのか論争とか、唇があったのか論争とかに、モンスターの見た目をもって終止符がついたわけじゃない。
今回、カハクに現れた恐竜は10メートルをゆうにこえる、肉食型の恐竜だった。
[ナナ★テントー: やっぱティラノさんカッケェ!!]
[MitsuyaCyber: ティラノ(りそうのすがた)だから]
もう何度も恐竜系のモンスターとは対峙してきたが。
イメージで多少は改変されているものの、古代の巨大生物が目の前で等身大に動いているというのは、何度見ても感慨深いものがある。
そんな存在に、四捨五入で2メートルぽっちしかないの自分が挑む、というシチュエーションに対しても、そうだ。
まあ、実を言えば単なる再現系のモンスターはそこまで強くない。
大振りで予想できる範囲の攻撃が多く、意表を突かれることがないからだ。
本来であれば、クマに襲われた人間のように、反応できていようとも負けるのがオチだが。
ダンジョンによってもたらされるアロステックエネルギー、いわゆる魔力により強化された探索者であれば話は変わる。
思った通りの挙動を実現できれば、避けることも容易く。
現在では弱い部類のモンスターという扱いとなる。
なので例えばスケイルブルやスケイルベアも同じランク帯では弱いモンスターだ。
逆に強力なモンスターは、回避不能な広範囲攻撃を振りかざすモンスターや、速すぎて目で終えないモンスター、特殊な手段による絡め手を用いてくるモンスターとなる。
最も、これも現段階の評価だ。
かなり前の、ランク5が最高とされていた頃では、防御の評価が高く回避は重要視されていなかった。
環境により、強いモンスターやこちら側の強い能力も移り変わっていっているのだ。
愛用のグラインドソードを振りかぶり、急所となる喉元に突き付けるため魔力スキンを削っていく。
肉食恐竜型モンスターは極端に腕が短く、噛みつきの方がリーチが長い。
つまり、その距離を保っていれば当たる攻撃はほとんどない。
巨大な顎につかまれば一貫の終わりかもしれないが、キチンとマージンを取って動けば危険も少ない。
[白鳩シェプスト: ランク7の面汚しじゃけぇ]
[ナナ★テントー: クソ雑魚ティラノくんさぁ...]
[ハルカ: マジレスするとこれティラノサウルス科じゃなくてアロサウルス科を模してる]
[硫化アリルマシマシ: モンスター側には厳密にはランク制度ないからね。仕方ないね]
「あ、ティラノじゃないんだ」
[ハルカ: あんまり恐竜は詳しくないけど、前脚の指が三本だから多分アロサウルス類です]
しかし、そんなおちょくるような動きをしていたからか。
突然ティラノ……ではなくアロサウルスらしい肉食恐竜型モンスターは、俺とは別に周囲を確認するようなしぐさを取った。
そして、ふいに向きを変えて逃げるように去っていく。
通常、ダンジョンのモンスターは侵入者である探索者をあきらめるようなことはしない。
そのような場合に考えられるのは、より優先度の高い相手が現れた、ということだ。
例えば、目の前にいる敵よりも相手にしやすい敵が来た。というようなケースである。
一転。明後日の方向に見える向きへと走り始めた大型肉食恐竜に、俺は巨大生物らしい大きな歩幅によって、すぐさま距離をあけられてしまった。
俺もそのあとを追うより他ないだろう。
ほぼ確実に、その先にモンスターが狙っている俺より弱い探索者がいるのだから。
◇
果たしてその先には、やはり探索者がいた。
アロサウルスはその顎を大きく開いて、飲み込もうとしている。
ギリギリ間に合った俺は、先ほどのまでの攻防で薄くなっていた大型恐竜の頸へグラインドソードを突き立てていた。
[MitsuyaCyber: 間に合った!]
[氷冷狐サワー: 女の子?]
[ハルカ: さすがです]
[ナナ★テントー: 間に合ってる!]
モンスターに襲われていた少女のそばには、球体のような装置が浮かんでいる。
撮影用の機材の一種で、録音録画、自動追尾などを行える装置だ。
まあまあのお値段はするが、現在のストリーマーの間では、始めたての頃に必ずお世話になるような初心者御用達の撮影機器だ。
つまり彼女もまた配信を行っているストリーマーだということである。
一連の流れを撮影されてしまっているわけだが。問題はなかったはずと一瞬、自問する。
ダンジョンに関する法律では、執拗に追い立てるような行為がなければ、モンスターが移動した先で勝手に人を襲っても過失があるとはならなかったはずだ。
「あーいや。こんなところに人がいるとは思ってなかったよ。カハクってそんな人気だったっけ?」
俺には過失はないことを自分の中で確認したが、マナーとしてはあまりいい方ではない。
しかし、こんなところに人がいると思っていなかった、というのは本心だ。
攻略組がこのあたりにとどまることはないし。第一、問題なく対処もしてくれるだろう。
そしてそれ以外の探索者の間では、このあたりは効率が悪いと避けられている。
[瞬殺???!!!!]
[はぁ???]
[つまんね、死ぬのを見に来たのに]
[どうなってんの?]
[さっさと死ねよ]
少女の足元に落としていた、配信画面を映した端末が目に入ってしまった。
そこには、結構な酷い言葉が並んでいる。
ジョンリーダーズに向けての誹謗中傷目的のコメントでは見たことはあったが、俺のコメント欄では見たこともないような言葉だ。
これが、いわゆる自殺系WeTuberという奴だろうか。
話には聞いていたし、たまにニュースなどで取り上げられて話題に上っていたのを見たことがある。
そうしているうちに、そんなストリーマーの少女が顔をあげたとき。
俺はハッとして息をのんだ。
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