第2話 ジョンリーダーズからの追放
「なんで入ってきやがった!! 最高の取れ高になってただろうがッ!!!」
俺は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「いやいや、勝てそうになかったじゃないか。それに、後ろから来てたスケイルブルにも気が付いてなかっただろ」
「オレは一撃ももらってねぇんだろ! なら、あのまま粘ってれば勝ってただろうが!」
後ろから迫っていたスケイルブルには一切言及しないあたり、相当都合のいい耳をしているのだろう。
リュウガは苛立ち気な様子のまま、「もう一度スケイルブルとの戦闘の準備をしろ」と指示をした。
って、まだ動画にする気なのか?
俺がいたからよかったものの。こんな事故未遂が起こったのに、ここを紹介する気なのか?
「おい待て。悪いことは言わないから、今回の動画はやめておけ」
「は? なんでテメーにそんな指図されなきゃいけねぇんだよ」
「現実を見ろ。こんなのを公開して、もし視聴者が同じような事態に会ったなら、ただの炎上じゃすまないぞ」
「現実ゥ?? ハァ……ああそうかよ。だったら、こっちこそ現実を見せてやるよ」
リュウガはその神経質そうな顔立ちを歪めて言った。
「つまり働かねぇってことだろ? ……なら、てめぇはクビだ」
……そうか。
そこまで、俺が邪魔だったのか。
ジョンリーダーズがこれ程人気になるまで、ずっと支えてきたつもりだったのだが。
彼にとってはそうではなかったらしい。
「……お前らも同じ意見なのか?」
オウマなど他のジョンリーダーズの4人は、ためらいがちに頷いた。
カメラの前では同等かのように振舞っているが、撮影が終わればリュウガにかしずいているばかりである。
「アラアラ、仕事なくなっちゃったねぇ?? これが現実だよ。消えろよゴミが」
「……っ」
何か言い返したくなるが、ハッキリ言って何を言ったところで無駄だろう。
今回は決定的だ。
これまでも幾度か衝突はあった。
もはや俺たちを繋ぎ止めていたのは利害関係でしかなかったのだ。
平行線の相手に、いくら口喧嘩をしても仕方がない。
「わかった」
「いい返事じゃねぇか。機材は置いてけよ? 当たり前だよなぁ?」
俺は撮影機材をダンジョンの床に静かに置いた。
これは腐っても彼らの備品だ。
本当なら放り投げてやりたいほどだったが、物にあたるべきではないだろう。
「これで俺とお前たちはもう無関係だ。じゃあな」
「あー、せいせいしたぜ!」
「俺もせいせいしたよ。お互い満足だな」
そんな俺の小さな呟きにも、ジョンリーダーズは過剰なまでに大きく反応した。
「チッ!! 最後までテメェはウゼェなァ!! 最後くらいこっちに気持ちよくさせてあげたいとか、そんな感謝の気持ちも示せねぇのかよ。ああ?!!」
「もう、無関係。……だろ?」
感謝の気持ち?
そんなのこれっぽっちもあるわけないだろ。
むしろ、そっちが感謝して欲しいくらいだ。
そもそも、この関係に至った経緯は、俺が彼らを助けたことだ。
そんな事実は、都合のいい彼らの脳みそにはもはや残っていないらしい。
「だいたい、最初から気に入らなかったんだよ! 覆面なんかつけやがって。もしかして、カッコいいとでも思ってんのかなぁ?? 気取ってんじゃねぇよ!!」
俺は踵を返し、下品に怒鳴り声をあげる彼らの元を後にした。
◇
ピッと、微かに電子音が鳴り、録画中を示すオレンジのランプがついた。
ジョンリーダーズで使っていたものとは比べ物にならない安物だが、それでも俺が自分で購入したダンジョン用カメラだ。
しかも、知り合いに依頼して、高深度の領域でも稼働するよう改造も施され、もはや一品ものとなっている。今となっては、自分のものという以上の愛着がある。
まあ、どうせならもう少し性能がいいカメラが欲しいというのは……いや、やめておこう。
最後に、録画画面を見ながら最終確認を進めていく。
特に覆面にズレはないか。つい先程、戦闘に参加したため念入りにチェックする。
俺は大手動画投稿者であるジョンリーダーズの動画編集や撮影などを主に担っていたが、実は自分のチャンネルも持っていた。
まあ、相手は100万単位だ。千人にも及ばない小規模チャンネルでは、比べるのもおこがましいほどではあるのだけれど。
俺が利用している媒体、WeTubeは、あくまで動画投稿サイトだ。
動画がメインであって、ライブ配信は主ではない。
実際、評価アルゴリズムとしても、配信を行うよりも実況動画や解説動画などを投稿する方が、ユーザーの元に表示される可能性が高くなるよう設定されている。
そのため、視聴者にもライブ配信専門サイトに移行したらどうかと提案されることも少なくないし。ちゃんと解説動画として編集した方が再生回数も稼げるのだろう。
頭では俺自身もわかっている。
ただ、ダンジョン最深部でライブ配信ができるというのは、俺独自の特徴だ。
視聴者、といっても攻略組が多かったりするのだけれど。彼ら彼女らのためにも、編集済みの動画投稿ではなくライブでなるべく多くの最下層の情報を届けたいという思いもある。
WeTubeを選んでいたのは、結局ジョンリーダーズへの対抗意識でもあったのかもしれない。
弱小のまま伸び悩む現状には、趣味だからと自分の中で言い訳をしていた。
「いや、ジョンリーダーズを離れた今。所詮趣味だからという言い訳も、今後は使えないのか」
乾いた笑いが口から洩れた。
ジョンリーダーズとはいつかこうなるとは思っていたし。もうずいぶんと付いていけないとは思っていた。
それでも、いざこの結末に直面して。俺は意外とこたえていたのだろう。
「別に、ダンジョン系WeTuberはジョンリーダーズだけじゃない」
彼らとは袂を分かつ結果になったが、何も人生が終わったわけじゃない。
そんな自分の中の将来への漠然とした不安に蓋をして。
俺は、LIVE配信をオンにした。
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