友人の告白

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賀城夫妻の旧友、利佳子にもついに子どもが誕生した。

一人で産み育てると決めた彼女の人生は今後どうなるのか。

そんな中、利佳子は前々から決めていた事をついに行動へ移すことにした。

友人シリーズその2。

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利佳子の子どもが誕生した。

当初は子を一人で産み、本来ならば夫となるはずの人物とは同居はせず事実婚として育てると話していたものの、今後のことを考えた結果、二人は入籍して同居の道を選ぶことにしたらしい。


「利佳子のところの赤ちゃん、見に行くんだけど修二くんも一緒に行かない?」

「いつ?予定が合えば…かな。」

「来週の金曜日だけど…」

「まだわかんねーな。一緒に行かれるように調整してみるわ。」


里美は言わなかったが、それは『一緒に来て欲しい』という事を意味していた。

子育てに追われる日々、人と関わる事が極端に減った里美にとって友人であり同僚でもある利佳子は、気兼ねなく会える存在の一人でもあった。

たまには息抜きさせてやらないと。

夫婦共に知人同士であり、これからきっと家族ぐるみでの付き合いになりそうだ。



何だかんだで、当日は修二も一緒に行かれることになった。

寧ろ一緒に行かれなかったら大変なことになるのだなら。

里美一人で子ども三人を連れて行くことになった場合、それは母一人、子三人では初めての外出となる。

三人を車のチャイルドシートに乗せる事も、グズり泣く声を聞きながら運転することも、全てを一人でこなすのだ。

それは想像しただけでも恐ろしかった。

ハンドルを握る修二が、ルームミラー越しに話しかける。


「俺が仕事休めなかったらどうするつもりだったんだ?」

「そしたら行くのは諦めてたかも。」


賀城家の双子も生後六ヶ月を迎えた。

なかなか大変なのは予想できたが、里美は久しぶりに利佳子に会いたかったのだ。

双子の妊娠で通常よりも産休入りが早かった里美が職場を離れた後、一度双子を出産後会いに自宅まで来てくれたがその後は顔を合わせることは無かった。

年末、利佳子が当初の予定通り産休へ入ったと聞いた時には里美も労いの連絡を入れたが、実際に会う流れには至らなかったのだ。

そして今回念願の再会、子どもたち同士は初対面となる。

里美が亮二を抱き、修二が愛梨と優梨の双子用ベビーカーを押す。


「家族で出かけるの久しぶりだな。」


修二が声をかけた。

二人目が予想外の双子だったこと、車に三台のチャイルドシートを設置する必要があったことで更に大きな車へと買い替えた賀城家。

出費が嵩み、今までにない支出に仕方ないことだと分かってはいても里美は金銭的な不安を拭えないでいた。



「利佳子、久しぶり!」

「今日は来てもらって悪いわね。中、どうぞ。」


賀城ファミリーを室内へ招き入れると、中には新生児を抱いた利佳子の夫がいた。


「修二、こんにちは。」

「どうも。快人、新婚生活はどうだ?」

「どうもないよ。あっという間に子どもが産まれたから二人きりの生活はほとんどしてないけどな。」


当初、利佳子の意地もありシングルマザーとして生きていくと宣言していたが、快人の強い説得により夫婦となる道を選択したのだった。


そのせいもあってか、あまり出産前と比べて見た目の変化は感じられなかったが、心なしか以前より利佳子の表情が柔らかくなった気がした。

リビングへ入ると小さなベッドやおもちゃなどが置かれており、利佳子の娘はもうすっかりこの家に馴染んでいることが見て取れた。


利佳子と快人の元に誕生した子、名前は晴(はる)。

新年を迎え、街も落ち着きを取り戻した頃、寒さ厳しい雨上がりの晴れた日に誕生した元気な女の子だった。

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