友人シリーズ

アカリン@とあるカップルの家族誕生小説

友人の恋

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

賀城夫妻にとって大学時代からの友人、利佳子からの驚くべき報告。

他人には口出しする権利はなく、彼女の決心は固かった。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの日、友人であり職場の同僚でもある利佳子からの報告に心から驚き、寝耳に水とはこういうことか。

里美は初めて身をもって経験した。

同時にこの部署はどうなってしまうのかという不安にも駆られた。

今回については本来育休中の里美ではあるが、重要な実験があるため元主要メンバーの一人として、もしも来られるようなら来てほしいと要請を受けていた。

立場上、通常ならばどんな場面にも顔を出すが現状育休中の身、全ての場に顔を出すことは難しかった。



数時間前


「あら、里美おはよう。来てもらって悪かったわね。亮二くんは保育園?」

「おはよ。亮二は家で修二くんがお世話してますぅ。」


里美は椅子の上でプラプラと足を揺らし何だか楽しそうだ。

仕事とはいえ、一人身で身軽に動けるこの時間が嬉しいのであろう。

生後数ヶ月の子どもと常に一緒にいる母親としては、自分の子どもとはいえ芽生える感情は『可愛い』だけではないのだ。


「修二くんは一人で大丈夫なの?最近は亮二くんが掴まり立ちをするようになって大変だって?この間、上のカフェで会った時に話してたけど。」

「普段は私がやってるんだもん。私ができることなら修二くんだってできるでしょ。」


手元のタブレットで何やら確認しながら、いつも通りクールに雑談する利佳子。

正直こんな雑談をしているほど呑気にはしていられないはずだ。

年に二回行われるこの重要な実験、育休中の里美はどこか蚊帳の外。

こんな呑気にしている里美の雰囲気も、相手が利佳子だから許されているのであろう。


「私もね、しばらく今日を最後にこの実験とは離れることになりそうだわ。」

「何、どういう事よ?」

「年末で産休に入る予定だから。」

「え?」

「そういう事、よろしくね。」

「待って、今言うの?それ、どういう事?」


先ほどと変わらず利佳子は手元のタブレットと対象物の状態を交互に確認する。


「安定期に入ったからあなたにも報告したの。予定だと年末で産休に入るから、色々とよろしくね。」

「安定期って…相手は?」

「相手はいないの。」

「いないって事ないでしょう?子どもなんて相手がいないとできないんだから…

そもそも利佳子が妊婦ってことなの?」

本人が言っているにもかかわらず、当然のことを聞く里美。


「そうよ、ほら。お腹も出てきてるのよ。」


普段は白衣を羽織っており気付かなかったが、利佳子がスカートをスーッと上から下に伸ばすと確かにふっくらとしたお腹が確認できた。


「何で言ってくれなかったのよ…結婚は?」

「私は大丈夫よ。相手はいないんだから結婚もしない。産んで一人で育てるわ。女に産まれたんだから1回くらい子どもは産んでおきたかったし、年齢的にもベストだしこれで良かったと思ってるのよ。」

「でもさ、赤ちゃん産むのも育てるのも大変なんだよ?利佳子、相手にちゃんと話したの?結婚しなくても、何かフォローはしてもらわないと。で、いつ産まれるの?」

「これでいいのよ。予定日は2月の終わり。あなたの所と同学年になるからよろしくね。」

「これでいいって言われてもね…」



利佳子は出会った当時、大学の頃から自分のことはほとんど話さない人だった。

美人だし、男はすぐにできそうだったけど当時も今までも彼氏がいるようなことを聞いたことはなかった。

しかしこうやって子どもができたということは、そういう行為をしたからであって相手がいるのだろう。


「ねぇ、利佳子さ…今のこの状況を知ってるのって、もしかして私だけ?」

「そうね、でも安定期には入ったしそろそろ話していこうと思っているわ。何も伝えずに長期休暇に入るわけにもいかないから。」

「悪阻は?」

「あなた大変そうだったものね。幸い私は大したことなくてね、仕事にも支障なくて。だからあなたも周りも気づいてないのよね。」

「そう、それは良かった…けど、体調とか困ったことあったら相談してね?頼りないかもしれないけど、私も一人だけど同じこと経験して来たし。それに、何より友達だからね。」

「ありがたいわ。」


大変な出産も育児もこの利佳子ならこなせるような気がしていたが、実際は産まれてみなければわからないことは多いはずだ。

正直なところ里美も息子の育児があり、それに自身も二度目の出産を控えている。

元々の性格的に人のことを気にしている余裕はないのだが、昔から姉のような母親のような、日頃から気にかけてもらっている利佳子に自分も何かできることがあればしてあげたい。

里美はそう思っていた。



その夜


「修二くん…あのさ、利佳子のことなんだけどね。なんか聞いてる?」

「ん?」

「利佳子ね、今年の年末で産休に入るんだって。」

「はぁ!?産休って意味分かってるか?」


里美だってそれを経験した身であり、産休が何なのかくらいわかっている。


「当たり前でしょ!利佳子が赤ちゃん産むんだって!」

「利佳ちゃんが本当に?そんな話聞いてないけど。それよりが相手いるのか?」

「それなのよね。相手はいないから結婚しないで一人で産むんだって。でね、もう五ヶ月…安定期だっていうの。ぶっ飛んだ話なんだけど本当っぽいのよ。」

「何だよ、それどういうことだ?それより桃瀬と利佳ちゃんが抜けてそっちは大丈夫なのか?」


修二は里美、利佳子の二人が部署から離れることの方が気掛かりだった。

別に二人だけの部署ではないし実際は何とかなるのだろうが、修二は里美同様、利佳子の相手の事について考えていたが、他人があれこれ考え言ったとしても行動するのは本人なのである。

それに異性として、この様なデリケートな事には自ら触れぬよう決心した。

それから一ヶ月後、修二は懐かしい人物から連絡をうけた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る