告白……ではないよな

「ふぅ。座れた座れた〜」


 ぶどう狩りを終えて帰りの電車の中。俺と結菜は幸いにも隣同士の席に座ることが出来た。

 ここから学校の最寄り駅まで移動して、どこかのファミレスで軽く夕飯を食べてから解散の流れだ。


「ぶどう狩り楽しかったな」


「そうだね〜。なんだかんだで三時間くらいぶどう狩りしてた?」


「ちょうど三時間くらいか。めちゃくちゃ遊んだな」


「ねー。結局二人で四房もぶどう食べちゃったよ」


「美味しいから永遠と食べられそうな気がしたわ」


 結局果樹園には三時間くらい滞在した。ゆっくりと散歩しながらぶどうを選び、ゆっくり食べていたらあっという間に時間は過ぎ去っていた。


「お土産も買っちゃったもんね〜」


「なんだかんだお土産のぶどう選びが一番時間掛かったよな」


「たしかに〜。自分が食べるものは大きければ大きいのがいいけど、家族へのお土産は見栄え重視だから」


「傷がついてないの選ぶのなかなか大変だったな」


 俺たちの足元には二つの紙袋がある。中にはもちろん、今日収穫したぶどうが一房ずつ入っている。自分の家族へのお土産だ。


「そのあとは近くのカフェで時間潰したよね」


「あのメルヘンなカフェな」


 ぶどう狩りのあとは夕飯までまだまだ時間があるからと、果樹園の近くにあったカフェでコーヒー片手にくだらない話をしていた。

 カフェの中は馬や羊の置物があったり、オルゴールや懐中時計などアンティークかつメルヘンな雑貨が置いてあった。


「俺、あれが人生二度目のカフェだ」


「そっか〜。私とカフェに行くの二回目だもんね。でどう? カフェは好きになれそう?」


「好きになれると思う。カフェ未経験の時はお店に入ることすら緊張してたけど、いざ入ると居心地いいもんだよな。混んでなければずっと居たいくらい」


「あはは。今日も長い時間カフェに居座ったもんね」


 窓の外を見てみると、空はオレンジ色に輝き夕日が沈もうとしていた。今日は結菜と午前十時に待ち合わせしていたので、かれこれ七時間くらいは遊んでいただろうか。


「ほんと、話すこと尽きないよな」


「そうだねぇ。これだけずっと一緒に居るのにね。不思議だね」


 結菜がこちらを見て微笑む。夕日に照らされた彼女の顔がとても綺麗で、心臓がドキリと跳ねた。


「ずっと一緒に居るからこそ話すことが増えるのかもな」


 俺は照れて頬をかきながら、そんなことを言ってみる。すると結菜は笑いながら、「たしかに」と頷いた。


「これからもまだまだ話すことは増えていくだろうな」


 そうだね。たったそれだけの返事が欲しかったのだが、結菜の口からは何も返って来なかった。


 ☆


「ふぇ〜。お腹いっぱい〜。もう食べられない〜」


 お昼はぶどうを食べて、それからカフェでコーヒーを飲んで……それだけでもお腹は埋まっていたのに、夕飯と称してファミレスでご飯を食べてしまった。


「お腹いっぱいだな。もう三日くらいは何も食べなくていいや」


「ふはは。三日は言い過ぎだよ〜。餓死しちゃうからね」


「それは嫌だな」


「でしょ〜?」


 今日は一日中何かしら口にしていた気がする。

 そんなこんなでお腹いっぱいになった俺たちは、最寄り駅に向かって夜空の下を歩いていた。ここまで電車で来ていた結菜のことを、駅まで送って行くのだ。


「明日は学校か」


「そうだねぇ。しかも明日は体育とか音楽とかないよ」


「うわー、まじかよ。そういや明日は月曜日だよな」


「そうそう。地獄の月曜日」


 ウチのクラスは月曜日に全科目の授業がある。国語。数学。英語。日本史。生物……とにかく一日中勉強させられる曜日なのだ。


「寝ないように頑張らないとな〜」


「寝たら授業に置いていかれちゃうからね」


「そうなんだよな〜。数学はまじで寝ないようにしないと」


「あ〜、最近数学に着いて行けてないんだっけ?」


「ああ。全く分からん」


 そう素直に白状すると、結菜はケタケタと喉を鳴らした。


「そんな堂々と言われてもねえ」


「まじで分からないんだよ。今度教えてくれ」


「いいよ〜。なんでも教えてあげる〜」


 結菜は余裕そうに鼻歌交じりに言った。きっと結菜は授業に着いて行けているのだろう。彼女の頭が羨ましすぎる。


「来年の二月くらいに期末テストあるらしいから、それまでに数学をどうにかしないと……あ、でも結菜は余裕そうだから期末テストのことなんて考えてもいないか」


 なんて冗談を言ってみたのだが、結菜は視線を地面に向けたまま返事を返さなかった。


「結菜……?」


 最近、たまにこうして結菜から反応が返ってこないことがある。

 どうしたのだろうかと心配になっていると、結菜がふと顔を上げた。かと思えば、彼女はその場で足を止める。


「琉貴。大事な話があるの。ちょっと寄ってかない?」


 そう言って結菜が手で示したのは、誰も人の姿がない公園だった。滑り台と砂場とベンチしかない小さな公園。


 結菜からの大事な話。女の子からそんなことを言われたら期待してしまうのが男というもの。だけども今だけは、嫌な予感がしてたまらなかった。


「……ああ……いいけど……」


 嫌だとは言えなかった。嫌だと言いたかったけど、それでは前に進めない気がしたから。

 結菜は笑顔で「ありがとう」と言うと、一足先に公園へと入って行った。それを追うようにして、俺も夜の公園へと足を踏み入れた。

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