ついに反撃
平日はあっという間に過ぎ去り、待ちに待った日曜日になった。今日はぶどう狩りに行く日だ。
学校の最寄り駅の改札前で結菜のことを待つ。日曜日というだけあって、駅の構内は人の姿で賑わっていた。
「早く着きすぎちゃったかな」
ポケットからスマホを取り出して画面を見てみると、『九時五十分』と時刻が表示されていた。
「おーい琉貴〜」
待ち合わせ時間まであと十分くらいあるし気長に待つとするか。そう思った矢先、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「お、結菜。早かったな」
目の前に立っていたのは私服姿の結菜だった。
上はベージュ色のブラウスを着ていて、下はロングスカートを履いている。秋らしくもあり、結菜のぽわぽわとした雰囲気も強調されるような服装だ。
俺はロングTシャツにコックパンツというラフな服装だから、彼女の隣に立って浮かないかちょっとだけ心配だ。
「私の方が早く着いたかなって思ったんだけどねぇ。琉貴の方が早かったか〜」
「まあな。早く起きちゃったから早く来てみたんだ」
「ふふふ〜。ほんとは私に早く会いたかったんでしょ〜。このこの〜」
結菜はニヤニヤしながら俺の腕をつついて来る。
もちろん彼女の言うことは図星だったので、顔がカッと熱を帯びる。
朝早くに目が覚めたというのは本当だ。でもそこから二度寝をすればよかったのだが、結菜と遊べると思うと興奮してしまい眠れなかった。だから家でもすることがなく、早めに待ち合わせ場所へとやって来たのだ。
「うっさいな。結菜も待ち合わせ時間よりも早く来たんだから俺に会いたかったんだろ」
「そりゃあそうだよ〜。一秒でも早く琉貴に会いたいから早く来たんだよ〜」
そんな可愛い結菜のセリフを聞いて照れてしまい、さらに顔が熱くなってくる。
「あれ〜? 琉貴ったらお顔が真っ赤だよ? どうしたの〜?」
愉快そうにクスクスと笑いながら、結菜が無理矢理に顔を覗き込んでくる。何度も顔を逸らそうとするが、その度に結菜が追い掛けて来るのでやかましいったらありゃしない。
「ほんと結菜って俺のことからかうの好きだよな」
「ふふーん。だって可愛いんだも〜ん」
「ほらまたからかった。そんなにからかうなら俺にも考えがあるぞ」
「考え?」
こてんと首を横に倒して、結菜はきょとんとした表情を作った。そんな結菜の頬を両手でつねって、優しく引っ張る。すると結菜の頬は左右に伸びた。
「うわーん。ひおいお〜」
頬が伸ばされているからか、結菜は上手く喋ることが出来ないようだ。
「ほら、からかってごめんなさいは? ごめんなさいって謝るまでこのままだからな」
「あー、おえんああい〜」
「何言ってるか聞こえないんだけど。ちゃんと謝って」
「うわーん。おえんなない〜」
「聞こえない」
「るい〜、おえんああ〜い」
泣き真似をしながら、結菜は多分だけど謝っているようだ。
もうそろそろやめてやるか。引っ張っていた頬を離すと、結菜はようやく元に戻った自分の頬を両手でさすった。
「ひどいよ琉貴〜。色々な人が見てる中でほっぺた引っ張るなんてさ〜」
「へん。これから俺をからかうとほっぺた引っ張りの形だからな。いつもやられてばかりの俺じゃない」
「うー、琉貴が強くなってる〜。もう気軽にからかえないよ〜」
「まず俺をからかおうとするな」
泣き真似をする結菜の頭に軽くチョップを入れる。
頭を押さえて「いだぁ」と反応すると、結菜はこちらへと上目遣いを向けた。その瞳と目が合うと、胸がトクンと高鳴る。
「だって琉貴が可愛いんだもん」
「可愛くねえよ」
「可愛いね。私が保証する〜」
「またほっぺた引っ張られたいか?」
「わー! うそうそ! 可愛いんじゃなくて琉貴はかっこいい! すごくかっこいいです〜」
「そうだ。それでいいんだ」
ようやく俺のことをからかわなくなった結菜の頭をポンポンと撫でてやる。結菜は気持ちよさそうに目を細めたと思ったら、思い出したかのようにムッとした表情を作った。
「むぅ。絶対にまたからかってやるんだから」
「はいはい」
「ひっどい! 適当な返事はさすがの私でも傷つくなぁ」
「それじゃあそろそろ電車に乗ろうか。ぼちぼちいい時間帯だからな」
俺は手をヒラヒラと振りながら、先に改札へと向かって歩き出す。
「うわっ。私のこと軽く無視したな〜。相手が琉貴でも許さないぞ〜」
なんて言いながら、後ろから結菜が走って追い掛けて来た。結菜はそのままちゃっかりと俺の隣に並んだ。そして不服そうに頬を膨らませる。そのいつも通りな結菜の様子に安心して、俺は思わず笑ってしまった。
「あ、なんで今笑ったんだよ〜」
「いやなんかさ。結菜がいつも通りだなって思って」
「私が? 私はいつでもいつも通りだよ〜」
「そうだな。結菜はいつも通りだ」
この一週間、結菜の様子が少しだけおかしかった。学校で一緒に居る時はたまに暗い顔をしたり、ボーッとしてるのを見かけることもあった。
けれども今日は元気そうだ。もしかしたら家族の誰かと喧嘩でもしていたのかな──なんて軽く考えていた自分のことを、未来の俺は思いきり殴ってやりたかった。
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