テストの結果は
日付が変わり、中間テストの返却日となった。
ウチの高校では赤点である四十点以下を取ってしまうと、夏休みの二週間を補習に費やさなくてはいけなくなる。今日返却されるテストの結果次第で、俺の夏休みが最高のものになるか否かが確定するワケだ。
「うわー、胃がキリキリするんだけど」
一日の授業が終わり、あとは帰りのホームルームを待つだけ。帰りのホームルームで中間テストの結果が返却される。担任の先生が教室にやって来たら、テストが返されるはずだ。教室で先生が入ってくるのを待つクラスメイトたちは、皆がソワソワとしているようだった。
「琉貴、すごく緊張してるね〜」
前の席に座っている結菜が、俺の顔を見てケタケタと笑う。
「お前は余裕そうだよな」
「うん。だっていっぱい勉強したもん」
「それは俺もそうだけどさ……でもテストの結果はどうなるか分からないだろ? もしかしたら間違いまくってるかもしれないし」
「ふふふ。琉貴は心配性だなぁ」
「俺みたいな奴の方が多数派だと思うけどなぁ……結菜は緊張しなさすぎだ」
「えー、そうかなー?」
結菜はほとんど緊張していないようで、さっきからずっと笑顔でいる。そのほわほわとした雰囲気を目の前で醸し出されると、自分がこんなに緊張しているのが馬鹿みたいだ。
「こんなこと本人に言うのもなんだけどさ、やっぱり結菜って勉強出来るようには見えないよな」
「また言うかー! つまりはバカっぽいってこと?」
「バカというか、何も考えてなさそうな感じ」
「ひどくない!? 私だって色々と考えてます〜」
結菜は唇を尖らせながら、不本意であることを抗議してくる。こういう無邪気なところも、頭がよさそうには見えないんだよな。
結菜とワイワイと話をしていると、教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。教室に入って来たのは、担任の先生だった。ウチのクラスの担任は、四十代の女性でスラッとした体型をしている人だ。彼女は書類の束を抱えている。クラス全員の五教科分のテスト用紙だ。
「さあ、中間テストの結果を返却するから席に着けー」
教室に入ってくるなり、担任は中間テストの返却を宣言した。その声に、友達と話し込んでいたクラスメイトたちはそそくさと自分の席へと戻った。結菜も同様に、小走りで自分の席へと戻って行った。
全員が席に着いたのを確認し、担任は教卓にテスト用紙の束を置いた。それからすぐに、担任はあいうえお順に生徒を呼び出し始める。担任からテストを返却されたクラスメイトたちは、笑っていたり落ち込んでいたりと様々だった。
「次、袴塚結菜」
「はーい」
結菜は教卓の前に立つと、担任から五枚のテスト用紙を受け取った。その際、担任は結菜に笑いかけていた。
結菜は自分の席へと戻ると、後ろを振り返ってこちらを見る。そしてニコニコ笑顔で、こちらに向かってピースをした。
まさかアイツ……本当に頭がよかったのか……?
「次、堀井琉貴」
「あ、はい!」
結菜の余裕たっぷりさに面食らっていると、ついに名前が呼ばれた。俺はトクトクと速まる心臓の鼓動を感じながら、担任が居る教卓の前に立つ。どうか俺にも笑いかけてくれ……そう願ったのだが、担任は無表情のままだった。
「堀井はもう少し頑張るように」
そう言葉を付け加えて、五枚のテスト用紙を俺に手渡す。そのセリフに、じわりと額から変な汗が出て来る。
「は、はい……」
それだけしか返事を返すことが出来ず、俺は自分の席へと戻りながらテストの結果を確認した。
国語 85点
数学 42点
英語 51点
生物 43点
地理 72点
その点数だけを目で追うと、赤点である四十点以下がないことに気が付いた。それだけで、俺は心の底から安心する。よかった。担任に「もう少し頑張るように」と言われてビビったが、赤点は取っていなかったようだ。
「よかった」
独り言を吐きながら自分の席へと戻ろうとすると、誰かに制服の裾を掴まれた。振り返ってみると、結菜が俺の裾をつまんでいた。
「テストの結果、どうだった?」
結菜は目を丸くさせながら、こてんと首を横に倒した。だから俺は五枚のテスト用紙を結菜へと見せつける。
「赤点はなかったわ」
そうスカしてみせるが、心の中ではドヤ顔をしている。特に国語と地理の点数を見て欲しいからな。
俺のテスト用紙を見た結菜は、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「よかった〜。これで夏休みも遊びに行けるね〜」
胸に手を当てながら、結菜はふくりと笑った。ということは、結菜も赤点を回避したのだろうか。
「結菜の点数はどうだったんだ?」
「私はこんな感じ〜」
結菜はニコニコとしながら、自分の机の上を指さした。彼女の机の上には、五教科のテスト用紙が乗っている。
国語 90点
数学 100点
英語 96点
生物 100点
地理 100点
そのテストの点数に、二度見ならぬ五度見までしてしまった。全てが九十点以上……しかも三教科は百点を取っている……。こいつ……こんなほわほわとした雰囲気を醸し出しながら、頭がめちゃくちゃいいのか……? もしかしたら俺は、結菜という生き物を少し低く見ていたのかもしれない。
「今度からは結菜様と呼べばよろしいでしょうか」
「ふふふ。呼べ呼べ〜。今日から私は結菜様だ〜」
なんて軽口を叩き合っているが、俺のハートはメラメラと燃え上がっていた。
いつもゆるゆるふわふわとして隙を見せている癖に、馬鹿みたいに頭がいいじゃねえか。いつか絶対に結菜よりも高い点数を取ってやる。冬に控えた期末テスト……いや、卒業までには結菜を越えよう。そして絶対に琉貴様と呼ばせてやる。そう心に誓って、俺は歯を食いしばりながらも笑顔を作った。
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