その3 控え室の奥
明くる日。
ふと調度品が気になってみてみると、その影にメモらしきものが有った。『俺は運命から逃げる。後のお前達もよく考えろ』とだけ書かれていたが、何のことだろう?
そこに、巫女さんの声が響いた。
「あなた様の冒険の、パートナーをお連れしました」
「はじめまして!」
巫女さんは1人の女の子を連れてきた。俺は咄嗟にメモを調度品の奥へ突っ込んだ。魔法使い、あるいは賢者といった雰囲気の衣装を身につけて、魔法の杖らしきものを手にした女の子だ。巫女さんのような美人ではないが、清楚そうな可愛らしい雰囲気だ。俺の好みとはちょっとズレてはいるが、決して悪くはない。
試しとして女の子に術を使ってもらう。「はあっ!」と叫んで杖を振りかざすなり、窓の外へ凄い火球が飛んでいった。これは頼もしい!
巫女さんと賢者の子と3人で食事を囲みながら話に花が咲く。聞けば、賢者の子も元は地味子で非モテのぼっちちゃんで、こちらは駅で酔っ払いに階段から突き落とされた後、気がつけば転生の神殿にいたらしい。彼女も手鏡をもらっていたので、映してみるとレベル101。手鏡の裏の数字を見ると「36」。俺と1つ違いだ。
名前、歳、住んでいる街、学校、家族、などなど……。同じ市内の出身だと知って、一気に親近感が増した。
辛い思い出話の交換もあったが、それよりも元の世界で読んだり見たりしていた漫画やアニメの方が盛り上がった。
「それではお二方様、私はこれで失礼いたします。……勇者様がたの中には、『使命』に耐えきれず逃げ出された方もいらっしゃいます。しかしあなた様がたは違います、お二人は必ずや『使命』を果たされるものと信じております。決して『運命』から逃げないでくださいませ」
そうこうしているうちに巫女さんが、奇妙な言葉を残して部屋から出て行った。
「何なんだろう、『逃げるな』ってまた言われた」
「私も一人のときに言われたんです、『何があろうとも、決して『運命』から逃げないでください』って。大げさだな、って思ったんですけど」
二人きりになったところで、思い切って賢者の子を抱き寄せてみた。驚いた顔の彼女は「実は、私も彼氏いない歴が年齢と同じだったんです」と打ち明けてきた。
「……でも、まだ早いですよね。隣の部屋で休ませてもらいます」
賢者の子は、冷静に俺から離れると隣室への扉を開き、その向こうへ消えた。
翌日、この部屋に巫女さんは来なかった。二人で剣技や魔法の練習を重ねたり、色々雑談したりしているうちにすっかり打ち解けて、気がつけば二人ともベッドに腰掛ける格好となった。
「まだ出会って一日と少ししか経ってないけど、いいかな?」
俺は勇気を出して、賢者の子へ唇を近づけてみた。彼女もこくんとうなづいて、俺にぐっと抱きついてきた。そして、自分の唇を俺の唇に重ねてきた。
「んっ……ん……」
俺は賢者の子の唇を離し、思い切って告白した。
「きっと、これが『運命』なんだ。逃げるも何も、こうなれば後は、お互いのやりたいようにやっていこうじゃないか。2人きりでとことんいけるところまでいってみよう」
「そうね、もしかしたら私たちの愛の力で魔王を倒せ、って事なのかも」
「これで俺たちも勇者と賢者のリア充だ!」
俺は顔を赤く染めた賢者の子ともう一度抱き合ってキスをして、運命の一晩を過ごし、そして夜が明けた。
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