第2話 魚の告白 その7
喜んでいいのか驚いていいのかわからない理久がとにかく声を上げる。
「おお、当たった。でも、なんだこりゃっ」
華穂も同じだった。
「わかんないけど、すごいっ。やったっ」
ナンバー四五がしゅうしゅうと蒸散していく――いつのまにか魚から結晶少女に戻っていた小雪だけを残して。
華穂が理久を促す。
「理久さん、小雪ちゃんをお願いっ」
「おうっ」
理久は結晶少女のもとへと駆け寄ってヒザをつくと、華穂のいる左手を結晶少女の顔にかざす。
華穂が結晶少女の名を呼ぶ。
「小雪ちゃんっ」
その時――
「!」
――理久は突き刺すような視線と悪寒を感じた。
おそるおそる顔を上げて、周囲を見渡す。
ゆらゆらと躍っている十本の触手を背に、内部を索漠の血で赤く染めた“コートを羽織った球体”に寄り添う二体の“異形”がいた。
一体はロングヘアにチューブトップとラップスカートをまとっているが、それは“女”ではない。
露出している胸元も腹も腕も脚も、そのすべてがメタリックな金属部品であり、目の位置ではマウントディスプレイのような
そして、そのとなりで佇んでいるのはどう見ても――カニ。
理久が遠足の水族館で見た世界最大の節足動物といわれるタカアシガニそのままの――カニである。
その二体が呪能砲の直撃を受けて動かなくなった索漠の入っている球体に寄り添っている。
渋面の理久がウンザリ気味につぶやく。
「また変なのが……」
華穂がささやく。
「あれも
「じゃあ、あれもついでにやっとく?」
予想外の威力でナンバー四五を倒し、索漠に致命傷を与えたらしい現状から調子に乗った理久の提案に華穂が応える。
「うんっ。やってみよーっ」
「よおしっ。
改めて理久が呪能砲を撃つ。
同時に華穂が呪EL銃を撃つ。
だが――。
理久の手のひらから飛び出した呪能砲は拡散することなく単発で慄冽へと向かう――最初に理久がひとりで放ったときのように。
「不発っ?」
「そんなあ」
さらに飛来する呪能砲を前に出た宵闇がバレーボールを叩き落とすように素手でなぎ払う。
戸惑う理久だが、考えられるのはひとつしかない。
華穂と一緒に放った“拡散する呪能砲”は一度しか使えない――のかもしれない。
同じ結論に達したらしい華穂が慌てる。
「ダメっ。あたしとの拡散弾はもう撃てないみたいだし、理久さんの呪能砲だけじゃ通用しないし……」
「じゃあ、どうする?」
「帰るっ」
その即答に対し、理久に異論はない。
さっきの“拡散する呪能砲”が撃てないというのであれば帰るしかない。
「転送装置をお願い」
「おう」
ポケットの中からごそごそと機械部品の塊を引っ張り出して華穂へと差し出す。
「はい」
「あと、小雪ちゃんを、その……ぎゅって」
「ぎゅ? こう?」
赤い顔の華穂から身振りで指示されるまま、結晶少女を右腕で抱える。
理久にとって生涯初めての異性抱擁だったが、残念ながら相手が結晶状態ということもあって、期待されるような感触は微塵もなかった。
「こんな感じでいい?」
「うん。じゃ――」
華穂の手が理久の右手に乗った転送装置に触れる。
直後に理久の視界にノイズが走り、そのノイズが消えた時、周囲は学校の中庭に景色を変えていた。
「帰ってきた?」
理久が安堵の息をつきながらつぶやいた時、右手の上で“機械部品の塊”――転送装置がぽんと小さな破裂音を立てて
同時に理久の左手で声が上がる。
「小雪ちゃああああん」
「わーい、華穂ちゃんだにゃん。やほー」
理久はイヤな予感を覚えつつ、おそるおそる左手を目の高さまで上げる。
親指にはさっきまでと変わらず華穂がいる。
そして、そのとなり――人差し指には“小雪”と呼ばれたツインテール少女の姿があった。
ふ、増えた……。
戸惑う理久は――
「お疲れさまでした」
――背後から掛けられた声に振り返る。
渡り廊下でナンバー四五へ銃を撃ち、華穂に
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