第2話 魚の告白 その5

 目を疑う理久の手元で――

「あーっ、ずるいずるいっ」

 ――華穂が叫ぶ。

最初もとの姿に戻して自分たちの有利にしようとしてる。ずるいずるいずるいずるいずるい」

 両手をばたばたさせる華穂を索漠が一喝する。

「うるさいのだぜっ」

 そして、臓物に包まれた魚に声を掛ける。

「さあ小雪よ。本来いた世界か無理矢理連れて行かれた世界か、どっちの世界に帰りたいか言ってみるのだぜ」

 魚がぱくぱくとあえぐように口を開く。

「……学校……に……帰りたい……みんなの所……が……いい」

 その言葉に華穂の表情が輝く。

「そうだよ、小雪ちゃんっ。一緒に帰ろうっ」

 対して索漠が不快気に吐き捨てる。

「“当人の意志優先”は、やめるのだぜ。やっぱ、実力で取り返してみろだぜ」

 ばたんと臓器が覆い被さり魚の姿を隠す。

 華穂が騒ぐ。

「約束やぶったーっ。ありえない、信じらんない。でも、こっちだって最初から実力で取り返すつもりですよーだっ」

 華穂が身構えて右手を突きだす。

 理久の目に、そのアクションはまさしく“必殺の一撃”を放つヒロインの姿に見えた。

 しかし――。

 その手から撃ち出されたのは目を凝らさないと見えないような微細な粒子銃弾だった。

 それがぱちぱちと線香花火のように弾けて消える。

 “信じられない”とばかりに華穂が目を見開いて声を上げる。

「ええええええええええええっ」

 青空の下、クレーターの荒野に索漠の笑い声が広がる。

「おい、華穂。その姿じゃ自慢の拡散型・“呪EL銃ジュエル・ガン”も撃てないみたいなのだぜ」

 そして、続ける。

「今度はこっちの番だぜ」

 反撃を告げるその言葉を聞くや、理久は無意識のうちに華穂を庇おうと左手を胸元へ引き寄せて右手で覆っていた。

 その右手の下から華穂が叫ぶ。

「理久さんっ、これ使ってっ」

 思わぬ言葉に理久が華穂を見る。

 これ?

 どれ?

 華穂が理久の左手首に装着されたリストバンドを小さな手でばんばんと叩いている。

 “そういや渡されてたな”と思い出すが、そもそも、理久はこれがなんなのか知らない。

「いや、これってなに? どう使うんだ?」

「これは“呪能砲じゅのうほう発射装置”って名前で……とにかく武器。細かいことはわかんないけどっ」

「呪能砲?」

 改めてリストバンドに目を這わせる理久を華穂が苛立った声で促す。

「いいから、左の手のひらを相手に向けてええええええええ――」

 よくわからないが“呪能砲”というネーミングと華穂の言う動作から察すると“なにかが出る”のだろう。

 理久が言われるまま索漠とナンバー四五へ左手をかざすのと同時に華穂が叫ぶ。

発射シュートっ」

 しかし、なにも出ない。

 理久がうろたえる。

「ななななななななんか出るんじゃないのか? なにも出ないぞ」

 華穂が首を傾げる。

「っれー、っかーしーな。ちゃんとイメージしてる?」

 そう言って理久を振り返る。

 もちろん理久には思い当たる節はない。

「イメージって……なにを?」

「発射するシーン。左手の先から“どーん”って」

「そんなの聞いてないよ。だいたい、なにを発射するんだよ」

「だから、呪能砲。エネルギー弾みたいなやつ。もう一回やってみて、早く早く」

 急かされながら、理久はさっきの華穂の言葉を繰り返す。

「じゃあ……。手のひらを相手に向けてえええええええええ――発射っ」

 かすかな反動とともに手のひらから握り拳ほどのエネルギー塊が撃ち出された。

 それは一直線に空を切りナンバー四五に向かっていく。

 戸惑う理久の左手で華穂が両手を挙げる。

「やったっ」

 直後にエネルギー弾――呪能砲がナンバー四五に着弾して火花を散らす。

「よぉぉぉしっ」と、理久が右手を握りしめる。

「ナンバー四五ぉぉぉっ」と、索漠が悲鳴を上げる。

 ――が、ナンバー四五はまるでダメージを受けていないようにその場に佇んでいる。

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