第二十八話「出雲流」
寮にほど近い位置にある川の土手で
刀が空を切る音が聞こえる。
「…98、99、100!!」
素振りを終えた俺は一息つく。
「…ふむ、
素振りも
以前にここで由銀と話して以来、
毎日続けてきた素振り。
これと並行して技の習得の為に
由銀との立ち合いなどもあり
最初の頃は
かなりきつかったことを覚えている。
親父が帰ったあと、
俺は
逃げるようにここまで来た。
素振りでもすれば
気が晴れると思っての行動だ。
…だが素振りが終わった後も
俺の心にはモヤモヤが暗雲のように
立ち込めていた。
「
由銀が何気なく聞いてくる。
「……親父はさ、昔からああなんだ。
何考えてんのかもわかんねぇ。
俺からしたら宇宙人とか見てぇな人だ。」
俺は由銀から水筒を受け取り
冷たい水で喉を
「…家にはほとんど帰ってこない。
たまに帰ってくると
俺に護身術を教えるくらいで
話らしい話はまともにしたこともなかった。」
由銀はじっと黙って聞いている。
「…中学の頃、
俺は霊能士に危ねぇ所を助けてもらってさ。
その霊能士に憧れて…
そんでそれが夢になった。」
俺は嫌なことを思い出しため息をつく。
「…ある日のことだ。
久しぶりに帰ってきた親父に
それを話したんだ。
そしたら滅多に表情に出ない親父が
急に怒り出してさ。
「お前は霊能士ではなく
執行部に入れ!」って怒鳴った。
俺もカチンときて
それ以来、話してない。」
…辺りを沈黙が支配する。
由銀は目を閉じ、何か考えているようだ。
どれだけの間、そうしていただろうか。
ふと、由銀が口を開ける。
「父君は零士を
心配しているのかもしれんな。」
由銀の言葉に俺は少し驚く。
「あの親父が俺の心配?
…まさか。」
由銀はそれを聞くと笑いながら
「いつかお主にも分かる。」と呟く。
また沈黙。
今度は俺からその沈黙を破る。
「由銀。
俺にもっと出雲流を教えてくれ。
俺は強くなりたい。
あのとき、俺がもっと強ければ
きっと、多くの人を救えたはずなんだ。」
由銀は少し間を置き口を開く。
「…出雲流は戦いの中で生まれた。
一度や二度の戦いではない。
吾輩は生涯の中で数多くの戦場を経験した。
…出雲流は吾輩の命の証でもある。」
重苦しい声で由銀は答える。
「零士殿の剣は吾輩とはまた違う。
誰一人として同じ剣は存在しないのだ。
そのものの剣は生涯をかけて形づくられる。
他者から教わる剣もあれば
自らの経験の中で生まれる剣もある。
王道を行く剣もあれば
邪道を行く剣もある。」
由銀は俺を見つめる。
「吾輩は零士の中で生まれた剣が見たい。
戦いの中で、生涯の中で生まれた剣を。
…だが、
今の状態では戦いが厳しいのも事実。
…あと二つ、技を伝授する。
そこからは先は主が技を作るのだ。」
「…俺が技を作る?」
俺は風に紛れてしまうほどの
小さな声でそう呟く。
「左様、だが安心なされよ。
何も全てを自らで考えずともよい。
吾輩、相談には乗るぞ。」
それでも煮え切らない俺に
由銀は微笑む。
「出雲流の極意を授けよう。
「型に捕らわれるな。」じゃ。」
そこまで言うと由銀は少し距離を取り
刀を出す。
「残り二つの技を伝授しよう!
立ち合いじゃ、かかってこい!!」
由銀の勢いに飲まれ俺は臨戦態勢に入る。
…俺の技。
……俺の剣。
立ち合い中もその言葉が
脳裏に焼き付いていた。
―あとがき
霊能戦記第二十八話いかがでしたか?
今回は零士の父の深堀りと
由銀の心中が語られましたね。
零士の剣。
出雲流ならぬ零士流の剣は
どう成長していくのでしょうか?
では次回、第二章閑話
「委員会会議」でお会いしましょう。ノシ
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