第二十七話「傷跡」

眼が覚めると俺は病室のベッドで寝ていた。

 

ゆっくりと上体を起こし

まだ覚醒かくせいしきっていない脳を回す。


(…俺は確か豪楽ごうらくに負けて…)


そこまで考えて赤崎のことを思い出す。


「…そうだ!赤崎は?!」


俺の言葉に隣でウトウトしていた人物が

驚いて椅子から転げ落ちる。


「いたた…。

急に大きい声出さないでよ…。」


千春ちはるだ。


ちょうど見舞いに来ていたんだろう、

机の上を見ると林檎りんごが置いてある。


「千春!赤崎は?!」


千春は椅子に座りなおしながら

「赤崎くんも無事だよ。」と答える。


「…あ、零士れいじが目を覚ましたら呼ぶように

お医者さんから言われてるんだった。

ちょっとまってて。」


千春はそう言うと部屋から出て行った。


―――――――――――――――――――――


「…はい、問題はなさそうですね。

全然目を覚まさないので心配しましたよ。」


担当医の男はそう言うと胸を撫でおろす。


どうやら俺は二日間、

眠ったままだったらしい。


俺はこのまま退院となるとのことで

受付で先に退院の手続きをした。


荷物を纏めてから

俺は赤崎に会いに行くことにした。


赤崎は所々包帯が巻かれた体を

ベッドに預けながら窓の外を見ていた。


「赤崎。」


俺が呼びかけると赤崎はこちらを振り向く。


霊井たまい…もう退院か?」


「あぁ。」


俺の返しに

「そうか。」と赤崎は答える。


「…あのとき助けてくれてありがとな。

おかげで生きてる。」


「借りがあったからな。」


赤崎は少し間を置き、

「…お前、街は見たのか?」と聞いてくる。


「いや…まだ。」


赤崎は窓の方を向くと

「…見ておけよ。

俺達の戦いの後をさ。」と呟くように言った。


―――――――――――――――――――――


「……これが首都?」


俺の眼下にはボロボロの街があった。


「…うん。」


建物は崩壊し、道路は引き裂かれ

火事の跡も残っている。


「人的被害…死人も出てるんだって。」


絶句している俺をそのままに

千春は言葉を続けていく。


「避難所に指定されてた学校とかの

一部の場所は無事だけど


それ以外の場所は…。」


千春が言葉を詰まらせる。


「わかった。

…もう大体わかったから。」


俺がそう言うと千春は口を閉じる。


「とりあえず、寮に帰ろう。

みんなもいるんだろ?」


千春は黙って頷いた。


―――――――――――――――――――――


寮に帰ると正明まさあきが待っていた。


「正明。」


「零士君、もう大丈夫なのかい?」


正明の言葉に頷く。


「…俺の部屋で話そう。

一応、俺もまだ安静の身だからさ。」


―――――――――――――――――――――


俺は部屋に入るとベッドに腰かける。


二人は椅子を持ってきて座った。


「帰る途中、街の様子を見てきたよ。

……俺達は何人、救えたんだろうな?」


正明は少し黙り込む。


「別にみんな救えたとは思わない。

だけど、考えちまうんだ。


もっとうまくやれば

もっと救えたんじゃないか?って。」


少し間を置いて正明が喋り始める。


「…僕たちは出来ることをやった。


それ以上を求めたって

僕たちにはどうしようもなかったさ。」


正明の言葉の半分は

自身に言い聞かせているように聞こえた。


俺達はそれで黙ってしまう。


コンコンッ


子気味のいい音が静寂せいじゃくの中に響く。


俺は扉に向かい少し開けて確認する。


「執行部の者で…あぁ零士くんか。」


執行部の男は扉の表記と俺の顔を

交互に見てそう呟く。


俺は扉を開ける。


そうすると二人の男が入ってくる。


一人は先ほどの男。


もう一人はあまり見たくない顔だった。


「執行部長、霊井一真たまいかずまだ。


今回の件で霊専生徒にも

話を聞こうと思ってね。」


その言葉に正明が反応する。


「執行部の霊井一真って、

非霊能士でありながら

霊能士と同等の力を持つと

言われるあの?!」


俺はその男に詰め寄る。


「…親父。

あんた、今更何しに来てんだ?」


俺は冷ややかな目を父親に向ける。


「あんたなら

もっと被害を最小限に出来たはずだ。


それなのに、今更来て話を聞く?」


親父は黙って聞いている。


「あんたのするべきことはあの場で!

あいつらを取り締まることだろ?!


…家族をほったらかしにしておいて


…話を聞くだけなのが

あんたの仕事か?!」


俺は息切れをしながらそう吐き捨てる。


「…言いたい事はそれだけか?」


親父はいつもの

何を考えているのかわからない

無機質な瞳で俺を見る。


「私の仕事は君たちに話を聞くことだ。


事件の際、私は別件があった。

執行部はお前が知っている通り多忙だ。


事件のたびに

人員を割けるほどの余裕などない。」


昔からそうだ。

この人は淡々と事実だけを話す。


まるで機械のように。


「零士、私は言ったはずだ。

霊能士などはやめておけと。


お前がいるべき場は執行部だ。


お前に霊能士は向いていない。」


親父は一つため息をつくと

「失礼、見苦しい所をお見せした。

今日の所は引き上げるとしよう。」と

淡々と答える。


「零士。

私は絶対に

霊能士になることは認めない。」


そう言って親父は部屋から出ていった。



―あとがき

霊能戦記第二十七話いかがでしたか?


今回、傷跡と言うことで

戦いが終わった後の首都の描写がありました。


そして零士の父親、一真の登場です。


作中で

かなり上位の実力を持っている人物ですが

零士はかなり嫌っていますね。


では次回、

「出雲流」でお会いしましょう。ノシ

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