第二十五話「壁」

斬りこむ、弾かれる。

斬りこむ、また弾かれる。


…どれだけの間それを繰り返していただろう。


俺は息を整えつつその男…豪楽ごうらくを睨む。


赤崎は相変わらず横たわったままで

眼を覚ます素振そぶりはない。


横目で赤崎の刀傷かたなきず

そこから流れ出る血を見て焦りがつのる。


(こいつを倒さない限り

ここを離れることは恐らく無理だろう。


追われて後ろからがオチだ。

…でもこのままじゃ赤崎がくたばっちまう。)


もどかしさを感じつつも

頭は冷静だった。


下手に剣技を使えば

それだけで体力切れを起こすだろう。


そうなれば俺も赤崎も終わりだ。


仲間を捨てるわけにはいかない。

だからと言って勝てる算段はない。


…残った道は一つのみ。


本隊の到着、それしかないだろう。


俺に出来るのはそれまでの時間稼ぎだ。


由銀よしかね

あれからどれくらい経った?)


(…一時間ほどじゃ。

まだ本隊は着かんじゃろうな。)


それを聞いた俺は少し肩を落とす。


本隊は東京奪還作戦の下見で東京近辺にいる。


そこから首都名古屋まではおよそ三時間。


絶望的だがここで逃げ出すわけにはいかない。


「さっきから普通の攻撃ばっかだな?

そんなもんで俺は倒せねぇぞ。」


そういう豪楽は実につまらなそうにしていた。


「…お前なんか技を使うまでもねぇよ。」


俺は吐き捨てるように答える。


…嘉崎との戦いで

俺はかなり体力を消費している。


これ以上の体力の低下は

避けなければいけない。


豪楽は「そうかい。」と言うと太刀を構えた。


その瞬間、

俺は全身の毛が逆立つようなプレッシャーを

感じ取り思わず後ずさりしてしまう。


「なら出させてやるよ。」


その瞬間、豪楽はこちらに斬りかかってくる。


それはただの横薙ぎの攻撃だった。

避ける隙はあった。


「…!?…万雷ばんらい!!」


俺は咄嗟に迎撃していた。


頭では避けるつもりだった。

だが、俺の体はそれを拒否した。


圧倒的な恐怖。


ここまでのものはこれまで感じたことはない。


由銀が何かを叫んでいる。


「なんだ。

怖気づいちまったのか?」


豪楽の言葉で

俺は全身が震えていることに気づく。


最初から勝てるとは思っていなかった。


隙を見つけて赤崎を連れて離脱。


そこから仲間を連れてこれば良いと

そう思っていた。


甘かった。


どうすればこいつに隙が出来るというんだ?


冷静な判断はもう出来なかった。


圧倒的強者に睨まれた

弱者が取れる行動は二つ。


逃げるか、やられる前にやるかだ。


俺は後者を選んだ。


「出雲流!飛雷とびいかづち・絶!!」


全神経を集中させる技、絶。


そして現時点で出せる

最高の剣技、居合・飛雷。


この二つを合わせた正に全力の技。


「軽いな。」


豪楽はそれすらも太刀で受け止めていた。

そして、そのまま俺の腹に蹴りを食らわせる。


その重すぎる一撃は俺を吹き飛ばす。

俺は受け身も取れずに壁に衝突する。


…息ができない。


気を失わなかったのは幸か不幸か。


逃げないと。

こんな奴が相手なら誰も責めない。


赤崎には悪いとは思う。


けれど俺だって死にたくはない。


…普段ならこんな思考にはならない。


だが、今まで感じたことのない恐怖が

俺を逃げ腰にさせていた。


そう考えている内にも

豪楽は俺に近づいてくる。


そして太刀を振り上げる。


…終わった。


しかし、太刀が振り下ろされる直前で

乱入者が豪楽の体に飛びつく。


豪楽はそれで体制を崩した。


「ぁ…」


乱入者は赤崎だった。


赤崎はこちらに顔を見せると

「逃げろ!」と叫ぶ。


だが、それも長くは続かず、


赤崎は豪楽に引っぺがされると

地面に叩きつけられた。


俺はそれを見てさっきまで自分を恥じる。


何が悪いと思うだ。


赤崎はあんな傷を受けてまで

俺を助けてくれようとしてくれているのに。


助けに来た俺が弱気でどうする!


俺は立ち上がり刀を構えた。


「なんだ、まだ立てたのか?」


豪楽はそう言うと太刀を構え直す。


正直、もう立つだけで精一杯だ。


だけど…


「…自分を曲げたら

もう誰にも顔見せ出来ないんだよ。」


さっきまでの逃げ腰になっていた自分に

活をいれつつ俺は言葉をつなげる。


「例え無駄だとしても

俺は自分を曲げたくはない。


それが俺の目指す霊能士だ!」


俺は静かに刀を構える。


狙うは一点。


豪楽の太刀の中腹の辺り。


先に動いたのは豪楽だった。


上段から繰り出せれるその一撃を

俺は最小限の動きで避ける。


「出雲流、万雷。」


万雷は見事に太刀の中腹の辺りを捉える。


俺はそのまま倒れていく。


薄れていく意識の中、

ピシッという小さな音が俺には聞こえた。


―――――――――――――――――――――


豪楽は零士が倒れた後、

異変に気付く。


太刀にはヒビが入っていた。


技でも使おうものなら

容易たやすく折れてしまうだろう。


「…。」


太刀がなくても殺す方法はいくらでもある。


しかし豪楽は太刀の召喚を解き

ポケットに手を突っ込む。


そしてそのタイミングで

遠くから何か大きな音が聞こえると


耳に着けた通信機から

嘉崎かさきの声が聞こえてきた。


『豪楽さん。

敵の本隊が到着しました。


こちらの予想よりかなり早い。

撤退しますよ~。』


「了解。帰還する。」


豪楽がそう答えると嘉崎が

『…貴方が素直に命令を聞くとは珍しい。

何かよいことでも?』と尋ねる。


「あぁ。楽しめそうな奴がいた。」


『それはなによりですね~。』


豪楽は通信を切ると

気絶している零士を見た後、


その場を立ち去って行った。


「てめぇの成長が楽しみだ。」と呟きながら。



―あとがき

霊能戦記第二十五話いかがでしたか?


今回、出て来た豪楽ですが

今後も何回か出て来ます。


零士にとっては今回は初の敗北な訳ですが

今回の戦いは彼をどう変えるでしょうか?


追記:投稿がかなり遅れてしまってすみません。

年内には遅れを取り戻せるよう頑張りますので

お付き合いください!


では次回二十六話

「嵐のような」でお会いしましょう。ノシ

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