第二十四話「愚者第二位の男、豪楽猛。」

市街地に来た俺は大きな天幕を見つけた。

垂れ幕には「臨時指令室」と書かれている。


(ここか!)


俺は垂れ幕を潜ると

霊専れいせん一年の霊井零士たまいれいじです!

応援に来ました!」と声を掛けた。


すると責任者らしき男が

「応援か。

助かる、と言いたいところだが

一年坊に任せられるようなことではない。


…悪いことは言わんから避難所へ急げ。」と


やんわりと断ってくる。


でもここで引き下がるわけにはいかない。

食い下がろうとすると


「君はもしや報告に上がってきた

新型怪異を倒した子らの仲間かい?」と

補佐官らしき男が話しかけてくる。


「新型を?

それは本当か?」


先ほどの男が心底しんそこ驚いたように聞いてくる。


「え?そうですけど

俺はそれを手助けしただけで…」


「君の報告も来ている

何でも敵幹部の一人を撤退させたとか。」


補佐官らしき男のその言葉を聞いて

先ほどの責任者らしき男はもっと驚いていた。


「それほどの実力があるなら…

ここはいい、代わりに

北部の市街地に向かってくれ。」


「何かあったんですか?」


俺がそう聞くと補佐官らしき男が答えてくる。


「そこでもう一人の敵幹部と

交戦状態になっている学生がいると

報告が入っている。」


「その学生の特徴は?!」


俺は思わず強く聞いてしまう。


「え?!えーと。

赤い髪に荒々しい性格の男だったらしい。」


赤崎あかさきだ。

 そうに違いない。)


俺は居ても立っても居られず

天幕を後にする。


(無事だろうな?!

 赤崎!)


―――――――――――――――――――――


時はさかのぼ鬼人衆きじんしゅうの首都全域放送後…


「おいっ!!

もっと急いで歩けねぇのか!」


俺はトロトロと歩いているババアにそう叫ぶ。


「すまないねぇ…。

腰が痛くてあまり急げないの…。


先に行っておいてくれ…。」


それを見た有為うい

「赤崎!

おばあさんにこれ以上急がせるのはこくだ。

もっと気を使った発言は出来ないのか?」と

言ってくる。


「うっせぇ!

俺はこういう喋り方しか出来ねぇんだよ!


……おいババア、背中貸してやる。

そうすりゃもっと急げるだろ…。」


ババアは「すまないねぇ」といいつつ

しゃがんだ俺の背中に乗っかってくる。


「なぁー赤崎ぃ。

俺もおぶってくれない?」


猫道ねこみちが俺に上目遣いで喋りかけてくる。


「てめぇは自分で歩けよ!

つか、男にそんな風にされても

気持ちわりぃだけだ!」


俺が追い払うと

「ちぇー」といいつつ走り出した。


俺達はその後も

同じ様に住民を救出していった。


―――――――――――――――――――――


一通り救出し終わり、避難所に急ぐ俺達の前に

突然、何かが降って来た。


土埃の中、現れた人影は

見慣れない長身の男だった。


「…てめぇ、ここらじゃ見ねえ顔じゃねえか。

どこのどいつだ。」


俺の質問に野郎はニヤリと笑いながら

「俺か?俺は豪楽猛ごうらくたけるってもんだ。

愚者フールで軍の総指揮を任されてる。


…あぁ後、コードネームはブレイドだ。」


(愚者…

さっきのふざけた演説野郎のとこの奴か。)


「んで?その愚者さんが何の用だ?

俺達は今、忙しいんだよ。」


「そう急かすなよ。

俺はお前に用があるんだよ。


赤崎刀祢あかさきとうや…だっけか?」


(こいつ、俺の名前を知ってんのか。)


俺は後ろにいる住民達を合流してきた

鬼人衆に引き渡す。


…恐らくこいつの目的は…


「なんとなく気づいてるかもしれんが

俺はお前を消しに来た訳だ。」


野郎は少し間を開けて話を再開させた。


「だが、それは半分建前だ。


俺はこれまで何度も戦った。

だが、一度も満足のいく勝負は出来ていねぇ。


愚者の中じゃ俺は

実力ナンバーツーらしいんだが


その肩書きを貰って以来

まともに勝負すら出来なくて困ってたんだよ。


…お前はどうだ?

俺を満足させてくれる奴か?」


(典型的な戦闘狂バトルジャンキーか。)


立ち振る舞いや気配で分かる

こいつには少しも隙が無い。


…強い。


俺は冷や汗をかく思いだった。


(こいつはここで

少しでも足止めしねぇといけねえ。)


「満足だぁ?

てめぇが負ける方が先なんじゃねぇのか?」


「生意気じゃねぇか。

まぁ、やってみりゃわかんだろ。」


豪楽は巨大な太刀たちを出現させ、肩にかつぐ。


召器しょうき霊能士れいのうしか。

相変わらず隙はねぇ。


小細工はなしが良さそうだ。)


俺は前を向きつつ

「てめぇらは先に戻ってこの事を伝えろ。

こいつは俺が足止めする。」と小声で伝える。


有為は少しの間考えた後、

「わかった。

 死ぬなよ、赤崎。」と言い残し

他の奴らと走っていった。


「お話はもういいのか?」


野郎…豪楽は太刀を担いだまま

待っていてくれたらしい。


「あぁ、待たせたな。

始めようか。」


(まともにやりあってたら

すぐにやられちまう。


だったら…。)


ほむら太刀流たちりゅう…」


俺は刀を上段に構えて

地面を蹴り野郎に詰め寄る。


火雨ひう!!」


俺は刀を振り下ろすと

急いでその場から走りだす。


(あんま手ごたえがねぇ。

 防がれたか。)


考えていると突然壁が壊れ

豪楽が姿を現す。


「追いかけっこが好きなのか?」


俺は舌打ちをしつつ

今度は中段に構えて豪楽に詰め寄る。


「焔・太刀流、紅蓮ぐれん!!」


鋭い斬撃の乱れ切り。


(また手ごたえがねぇ!)


「今度はこっちの番だ!」


豪楽は咄嗟とっさに避けようとした俺の足を払う。


(くそが…。)


―――――――――――――――――――――


「今の音は…?」


俺は一度立ち止まると音のした方へ走る。

しばらく走ると二人の男がいた。


一人は大きな太刀を持った長身の男。

もう一人は…


「赤崎!!」


俺は赤崎の元に走り寄る。


赤崎は右の肩口から左の脇腹まで

大きな刀傷があった。


(酷い傷だ。

早く治療しないと命に関わるかも。)


「お前は確か…霊井零士…だったか?

嘉崎かさきはしくじったのか。」


俺は長身の男を睨む。


「…いい眼だ。


そいつに止めをさすつもりだったが…

気が変わった。」


長身の男はそう言うと少し距離をとってから

「愚者の豪楽猛だ」と名乗る。


今は戦っている場合ではない。

…だが…


(逃がしてくれるほど甘くもなさそうだ。)


「…霊専の霊井零士だ。

…悪いが遊んでいる暇はない。


さっさとお前を倒させてもらう!」


俺は豪楽と名乗った男にそう答えると

刀を構えた。



―あとがき

霊能戦記第二十四話いかがでしたか?


剣技は必殺技な立ち位置で

かなりのダメージが見込めるんですが…


今の彼らではかなり厳しいようです。


そんな中、零士は彼に戦いを挑む訳ですが…。


第二章も終盤です。


では次回

「壁」でお会いしましょう!ノシ

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