第二十話「テストと影」

目を覚ますと

俺は自室のベッドで横たわっていた。


俺が目を覚ましたことを確認した小林は

菅原すがはら君!目を覚ましたっすよ!」と

正明まさあきに話しかける。


台所に由銀よしかねと一緒にいた正明は安心した様子で

「具合はどうかな?」と聞いてきた。


「…あぁ大丈夫だ。

三人とも心配かけたな。」


「吾輩、心配し過ぎて

死にかけるところだったぞ。」


由銀は真顔でそう言った。


「…いや、由銀はもう死んでるだろ…。」


―――――――――――――――――――――


その後、正明に俺たちの事情を説明した。


「…なるほど、事情は分かったよ。

このことは僕たちのほかには

誰が知っているんだい?」


「俺と小林、千春、正明かな。」


あえて言わなかったが九条や

津中のように俺たちに恨みのある連中もだ。


「君たちがあの鬼人衆だと言うのには

驚いたけれど、話を聞く限り

噂に聞くものとは違うみたいだね。」


「…どんな噂かは知らんが

ろくなものではないことは確かだな。


…正明、俺たちに関わると

今日みたいなことが

あるかもしれない、だから…」


正明は俺の言葉を遮り

「大丈夫だ。」と答える。


「君が過去に何かあったとしても

君の友達であることには変わりないよ。


友達に危険が迫っているのなら

助けるのは当然だ。


…それとも僕じゃ足手まといかい?」


正明の言葉に驚きつつも

「そんなわけない。

ありがとう正明」と答える。


「それじゃ、そろそろおいとまするっす。」


小林はそう言うと立ち上がる。


「久しぶりに霊井たまいさんの顔見れてよかったっす。

…まだ帰ってこないんすよね。」


小林は寂しそうな顔をしていた。


「…九条は恐らく愚者フールにいる。」


二人は驚く。


「前に愚者を調べたとき

九条らしき目撃情報を見つけたんだ。」


由銀が淹れてくれた茶を飲み、喉を潤す。


「愚者を追えば九条に辿りつけるかも。

…九条についての情報はこれだけだ。」


三年前に鬼人衆をやめてから

ずっと九条のその後を追ってきた。


それまでで得た情報はゼロだ。


「俺はどうしても九条が

あんな簡単に裏切るような奴とは思えない。


何か事情があるんじゃないか?

そう思えてならない。」


小林は少し嬉しそうにしていた。


「変わらないっすね。

俺もです、九条がそんな奴だとは思いたくない。


…九条のことよろしくお願いします。」


そう言い残し小林は帰っていった。


正明とは飯を食ってから分かれた。


「今日は大変だったなぁ。」


そういいながらベッドに座る。


…そういえば何か忘れている気がする。


「…あ、勉強…。」


テストまで後、数日。


翌日から俺は死に物狂いで

正明に勉強を教わった。


――――――――――――――――――――


テスト当日。


「…ちょっと悪いことしちゃったかなぁ。」


凪千春なぎちはるはそう呟いた。


(結局、

今回は一度も勉強教えていないのよね…。)


零士れいじはいつも懇切丁寧に勉強を教えて

やっと赤点を逃れるくらいの問題児なのだ。


(テスト直前だけど

少しでも教えてあげようかな…。)


そんなことを考えていると

零士が教室に入ってきた。


「…え。どしたの。」


零士は明らかに疲れた顔をしていた。

目にはくまが見える。


「……あぁ千春か。

地獄を味わってきただけさ…。」


そう言うと零士は机に突っ伏しながら

「勉強コワイ…勉強コワイ…」と呟き始める。


「凪さん、おはよう。」


正明くんがなんかやけに晴れやかな顔をしつつ

挨拶をしてくる。


「…ねぇ、零士なんかあったの?」


「いや何、彼が勉強を教えてほしいというから

少し張り切って教えてあげたのさ。」


そう言うと

「零士君!最後の追い込みだ!

テストまでおさらいするぞ!」と

零士に言っていた。


(…正明くん、どんだけ張り切ったの…。)


「…この時代の勉学は

凄まじいものなのだな…。


あやつ、まるで戦場帰りの武士のようだぞ。」


直虎なおとらが恐ろしいものを見る眼で

その様子を見ていた。


「…そんなハードなものじゃないはず…

なんだけどなぁ。」


今度はちゃんと教えてあげようと

思った千春であった。


―――――――――――――――――――――


「…やっと解放されたぞ…」


テストが終わり俺は机に突っ伏していた。


地獄のような勉強の成果もあり

なんとか解答用紙を埋めることが出来た。


それはよかったんだが…。


「身が持たねぇよ…。」


「…大丈夫?零士。」


千春と正明が心配そうに俺を見ていた。


「…なんとか。」


「…テストだけでそんな風になるとか

…お前どんだけだよ。」


赤崎が少し引き気味にそう言った。


あの件以来、

赤崎は俺への対応が優しくなり


こうやって話しかけてくることも

多くなっていた。


「ん…赤崎か。

今日も一緒に帰るか?」


「あ、わりぃ今日はこいつらと帰るから。」


赤崎の指さす方向には

猫道と有為さん、坂上さんがいた。


「次の戦闘訓練はまたこいつらとだからな。

連携の相談とかをする約束してんだよ。」


そうそう、こうやって仲間と相談することも

増えている。


以前の赤崎なら考えられないことだ。


「そうか。

ならまた明日。」


赤崎はニコッと笑いながら

「おう!」と答えた。


「じゃ、俺たちも帰るか。」


―――――――――――――――――――――


そのころ、首都の玄関口「門」では。


「…貴方たちはどなたですか?」


門番の男性が

二人の見慣れない男に話しかける。


「…ただの観光客ですよ~。」


男の一人がそう答える。


「失礼ですが身分証を…」


「ただの観光客だっていってんだろ。」


もう一人の男は門番の男の首を締めつつ

そう答えた。


「貴様!その手を放せ!

さもなくば逮捕する…」


待機所から出てきたもう一人の門番は

銃を抜き首を絞めている男に向けるが…


最後まで言い切ることはできなかった。


何処からか現れた怪異の鋭利な爪で

体を貫かれたからだ。


首を絞められている門番は

それを見て叫ぼうとする。


「おっと、叫ぶのは無しだぜ。」


しかし、もっと強く首を絞められたことで

叫ぶことすら叶わずに絶命した。


「…さて、行きましょうかねぇ~。」


二人の男…愚者幹部の嘉崎かさき豪楽ごうらく

首都に入る瞬間である。



―あとがき

霊能戦記第二十話どうでしたか?


二十話という節目の回で

初の死者が出てしまいました。


次回は愚者との対決となります…。


…零士は今の状態で戦えるのでしょうか。

こっちが心配になってきました。


では次回「愚者の行進」でお会いしましょう。ノシ

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