第十八話「鬼人衆」

五年前、私立霊ヶ崎中学校、校舎裏。


一人のひ弱そうな生徒が

複数の生徒に囲まれている。


ひ弱そうな生徒は

全身あざだらけで酷い有様だ。


「いじめ」だ。


当時中学生の零士は

何度かその光景を目にしていた。


…だが止めたりはしなかった。


いじめを行っている連中は

権力者の子供だった。


たとえ「いじめ」が発覚しても

すぐにもみ消され先生も見て見ぬふり。


それがここの日常だった。


狂っている。

それは見てみぬふりをしている俺も同じだ。


その日も見て見ぬふりをして

立ち去ろうとした。


不意にいじめにあっている生徒と眼があった。


その眼に光はない

この世の全てに絶望しているような眼。


それを俺は見た。


その瞬間、俺は走りだしていた。


「…止めろよ!!」


当時、父から仕込まれていた護身術。

それをフル活用していた。


周りの取り巻きを倒し

リーダーにも一発入れようとしたが

気付いたときにはいなかった。


逃げ足だけは早いらしい。


先ほどいじめられていた生徒を見ると

口を開けて呆然としていた。


「…立てるか?」


生徒はコクンと頷く。


「大丈夫…なのか?

あいつら…」


「…まぁ大丈夫ではないと思う。」


俺はもう色々と諦めていた。


―――――――――――――――――――


次の日、俺が登校すると皆が目を逸らした。


当然だ。

あいつらに手を出した俺と関われば

どうなるか分かったものではない。


昼休み。


教室に居場所のない俺は

屋上で一人弁当を食っていた。


すると昨日の生徒がきて隣に座った。


「すみません。

僕がいじめられていたばっかりに…」


そういって頭を下げようとする彼を

俺は手で制した。


「君は悪くない。」


一呼吸を置きお茶を飲んで喉を潤す。


「…俺は最初見捨てようとした。

「いつものことだ」って

自分に言い聞かせて。」


生徒は「それでも助けてくれた」と答える。


「…あのときの君の眼は俺の嫌いな眼だった。

暗闇の中にいて光を探すことを諦めた眼だ。」


俺は立ち上がる。


「もう俺はこの学校で

まともな生活は送れない。


…だから、もう見て見ぬふりはやめる。

誰かが助けを求めてたら助ける。


そんでもういじめられても

反撃できるように俺が鍛える。」


生徒は眼を輝かせていた。


「それいいっすね!

なんかこう団?みたいなの作りましょうよ!


かっこいい名前がいいな~!」


その様子に俺は苦笑しつつ

「気がはえーよ。」と答えた。


―――――――――――――――――――――


それから少し経った。


結論から言えば俺たちは

特にお叱りを受けるわけでもなかった。


周りからは孤立してしまったが…

それは些細な問題だ。


あの生徒は名前を小林行人こばやしゆきとと名乗った。


俺は小林を鍛えて

二人でいじめを撃退していった。


それに伴って仲間も増えていった。


仲間はほとんどがいじめから救った者達だが

例外が一人いた。


九条竜司くじょうりゅうじという男だ。


ある日ふらりと現れて

「仲間にしてくれない?」と


まるで友達の遊びの輪に入るかのように

彼は言った。


彼は様々な技能を身に着けていた。


俺は彼から剣術を学び

小林は棒術を習い自分のものにしていった。


最初こそ九条を入れるべきではないと

言っていた奴とも今では普通に話している。


「知ってるっすか?

俺たち最近「鬼の集団」とか

呼ばれてるらしいっすよ。」


そう発言したのは小林だ。


「「鬼」ねぇ…

まぁ確かに鬼みたいなリーダーは

いるけどね。」


九条がそれに答えた。


「お前ら…それは誰の事だ?

今日のトレーニング

お前らだけ倍にしてやろうか?」


その言葉に二人は押し黙る。


「…でもまぁ、

いつまでも名称が定まらねぇのも

かっこつかねぇか。」


その言葉に小林が生き生きと

「そうっすよ!」と答える。


「名前か…どんなのにするんだい?」


九条の言葉に少し悩む。


…小林が目をキラキラさせて

こちらを見ていた。


「…どうした?」


「実は色々と案があるんすよ!

これっす!」


小林が渡してきたメモ帳を開く。


「…多すぎやしねぇか?」


メモ帳を見た九条も

「…うわぁ…」と軽く引いていた。


特に案もない俺はメモ帳に目を通していく。


ピンとくるものがないまま最後のページまで

見るとふと目に留まるものがあった。


「…鬼人衆…。」


俺は無意識に呟く。


それを聞いた小林が

「いいでしょ、それ。」と答える。


「鬼人衆…「鬼の集団」と

似たような感じだね。」


九条の言葉に俺は頷く。


「これでいいんじゃねぇか?

俺はこういうセンスねぇしな。」


―――――――――――――――――――――


次の日、全員を近くの廃工場に集めた。


「皆、今日は大事な話がある。」


その言葉に全員の視線が集まる。


「俺たちの名前が決まった。

…「鬼人衆」それが俺たちの名前だ。」


ざわつき始めるのを手で制すると

俺は話を続ける。


「ここにいる奴らは多くが

理不尽にいじめられていた奴ばかりだ。


お前たちはそこから救われて強くなった。


…だが強くなったからって

誰かをしいたげていい理由にはならねぇ。


俺たちの力は自分を守る為、

誰かを助ける為にある。


それを忘れて誰かを虐げるような奴は

俺が容赦しない。」


そこで少し間を置き全員の眼を見る。


希望に満ち溢れた眼だ。

助けたときにあった絶望の眼は一つもない。


「鬼人衆!

お前たちの活躍に期待する!


以上だ!」


俺の言葉に工場内が湧きたつ。


鬼人衆の名は

数日を待たずに各地に伝わることになる。


俺、小林、九条の三人はそれぞれ

黒鬼、青鬼、赤鬼と呼ばれ


いじめっ子たちの畏怖いふの対象となった。


…思えばこのときが

鬼人衆のピークだったのかもしれない。



―あとがき

霊能戦記第十八話いかがでしたか?


今回は一話丸々使った過去でしたね。


一応、次回も過去編が多めですね。

…ただこの過去編が後々重要になってくるので


次回も見て行ってください!


では次回

「泣いた青鬼」でお会いしましょう。ノシ

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