第十六話「反撃の時間」

「行くぞ!表桜冬裏。

第二ラウンドだ。」


「粋がるなよ!ひよっこ!」


表桜が叫び、

槍を構え突撃してくる。


俺はその攻撃を上に飛び、避ける。


そのまま表桜の後ろに着地し

反撃を仕掛ける。


が、間一髪のところで避けられてしまう。


表桜は憎々にくにくにこちらをにらむ。


(これなら…いける!)


俺はそう思い唇をほころばせる。


「…舐めるなよ、ひよっこ。

俺はてめぇらと違ってプロだぞ。これで終われるかよ!」


「汝、道三よ。

我が矛となれ、我が盾となれ…」


「!?逃げるんだ零士君!」


正明が必死に叫ぶが、

俺は何に焦っているのかわからなかった。


「その魂を我が鎧とし我の力となれ!」


表桜が唱え終わったかと思うと

いきなり槍が虚空から切りかかってきた。


俺は咄嗟とっさに防御する。


「…へぇ、今のに反応するのかよ。」


表桜は薄ら笑いを浮かべる。


…今の攻撃。

いきなり槍が切りかかってきたわけじゃない。


目にも止まらない速さで表桜が突っ込んできて

槍で切りかかった。


それに気づいた俺は意図せず「嘘だろ…」と呟く。


「知らないのも無理はねぇ。

何たってこの「霊装れいそう」は

お前らが二年で習う…いや習うはずものだからな!」


表桜は槍で連撃を繰り出してくる。


なんとか捌き切るがかなりぎりぎりだった。


「…これでも反応するのかよ。

…だったら。」


不意に表桜が複数人に見える。

表桜達は一斉に攻撃を仕掛けてくる。


目の前の表桜の攻撃を防ごうとするが

その攻撃はすり抜け、後ろから攻撃される。


後ろの表桜に反撃を仕掛けるが

これもまたすり抜ける。


恐らく幻覚を見せる能力なのだろう。


本物は一体だけなはずだ。

しかし、全く見分けがつかない。


(こうなったら…!)


――――――――――――――――――


さすがに万策尽きたか?

表桜は攻撃を仕掛けながら思案する。


(急に戦闘能力が上がったり

霊装に対応してきたときはかなり焦った

…が、ここでこいつも終わりだ。)


やはり霊井零士たまいれいじはイレギュラーそのものだ。


霊専の入試は学力を見る目的もあるが

潜在能力を見る場という面が強い。


人は集中しているときは霊力が増大する。


それがデカければそいつは潜在能力が高いということだ。


霊井は潜在能力が過去に例を見ないほど高かった

それを見た職員達は驚きすぎて三度見したくらいだ。


…だがこいつは

その高すぎる潜在能力を制御できなかった。


だから俺はこいつを取り込むのを諦めたわけだが…


(まさか、俺との戦いの中で開花するとはな。)


こいつは近い内に必ず愚者フールの脅威となる。

…今の内に摘み取っておくに限る。


「これで終わりだ!霊井!」


渾身の突きを放つ。


…しかしその突きが届くことはなかった。


霊井は槍を避けた後、

槍をがっちりと握っていた。


(…刀を握っていない!?

あの刀は何処に…)


「今だ!由銀!」


霊井の霊があの刀を槍を斬りにかかる。


(馬鹿め!

召器の武器は斬れないんだよ!)


勝ちを確信し笑みを浮かべたその瞬間。


表桜の槍は斬れた。

…あっけなく。


「何!?」


―――――――――――――――――――


表桜は見るからに動揺し

今まで全く見せなかった隙を見せた。


(今だ!)


由銀をもう一度憑依させ

夢斬を上段に構える。


表桜は咄嗟に

斬れた槍の柄で防御しようとする。


(吾輩も支援する!

とっておきの技でいくぞ!)


俺は頷き

足でしっかりと地面を踏みしめる。


出雲いづも流、「万雷ばんらい」!」


斜め袈裟切り…万雷で

槍の柄ごと表桜を斬る。

表桜はそのまま仰向けに倒れる。


「安心しろ。

殺そうと思って斬ってはない。」


霊力で創り出した武器などは

自身の意思により斬るか斬らないかを制御できる。

携帯を確認すると柳葉君から

こっちに応援を連れてくる旨が

記載されたメールが入っていた。


「…もうすぐ応援も駆けつける。

貴方はそのまま委員会執行部に引き渡す。」


表桜は仰向けのまま、薄笑いを浮かべる。


「何がおかしい。」


「…お前らのこれからを思うと

笑えて来てしょうがねえんだよ。」


「これで終わりじゃない。

フールは止まりはしないぞ。」


――――――――――――――――――――


数日後、表桜は退職したと

福田先生が生徒に説明をした。


あの一件は公言を禁じられ親にも話してない。


その日の授業後、俺は赤崎に呼び出され

学校の屋上にいた。


「…それで話ってなんだよ。」


単刀直入に聞いてみる。

すると赤崎は妙に真面目な顔で頭を掻く。


「……サンキューな。

てめぇが助けに来なかったら俺はヤバかった。」


俺はフリーズしていた。

…え?あの赤崎が俺に礼を言ったのか!?


「…なんか言えよ!

俺がわざわざ礼を言ってやってんだぞ!!」


「え!?あ…えーと、どういたしまして?」


――――――――――――――――――――――


俺は煮え切らねぇ返事をする霊井を見て

ため息をつく。


「…それとあのときのてめえの言葉。

あれは本心か?」


「あのときの言葉?」


「俺は絶対に諦めねぇってやつだ。」


「あぁ、あれか。

本心だよ、受け売りだけどな。」


俺はその言葉を聞いて昔を思い出す。

怪異に襲われた俺を助けてくれた

名前も知らない霊能士。


その人は強力な怪異を前にして

仲間からの制止を無視して言ったんだ。


「こんな所で諦めて何が霊能士だ!

俺は絶対に諦めないぞ!」


そして俺はその霊能士に憧れてここに来た。

…それを思い出させてくれたのは

間違いなくこいつだ。


「…だったら俺とてめぇはライバルだ。

俺はてめぇを追い越す。絶対にな!!」


俺は笑いながらそう言った。


「…よくわからんが…

負ける気はないぜ。」


こんな気持ちになれたのは

いつ以来だろう。


俺だってなってやる。

世界一の霊能士に!



―あとがき

霊能戦記第十六話いかがでしたか?

今回で第一章は大体終わりです。


次回は閑話となっています。


新たなキャラや第二章への繋ぎの内容となっています。


…つか第二章も書かないとな。


では次回「暗闇に生きる者達」でお会いしましょう。ノシ

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