第九話「身体測定と不審な先生」(後編)

グラウンドに戻ると福田先生が

「休憩終了だ!全員俺の周りに集まれ!」と

叫んだ。


(なんとか休憩終了には間に合った…。)


安堵しつつも

まともに休憩が取れなかったことを思い出し、

俺は思わず深いため息を吐いていた。


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午後は持久走、50m走と走るものが多かった。


俺は出来る限り走った…が、

まったく追いつけない。


ビリは回避したが

その差はドングリの背比べのようなもの。


上位との差は午前よりも目立っていた。


立ち幅跳びもほぼ同じ。


残りはハンドボール投げのみとなっていた。


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体力測定の最後の測定項目、

ハンドボール投げ。


俺は素の体力測定でもこれだけは苦手だ。


今までの項目で上位の成績を獲得した人は

やはりというべきか化け物級の記録ばかり。


俺はもう半ば諦め状態になっていた。


俺の番がやってきた。


ボールを掴み円に入る。


(…適当にやろうかな。)


そんな考えが浮かぶ。

しかし同時に昨日の由銀よしかねの声もよみがえる。


(…俺は世界一の霊能士になるんだ。

こんな所でつまづいていられない!)


俺は思いっきり振りかぶってボールを投げた。


…しかし、りきみ過ぎたのか

ボールはかなり手前に落ちた。


(やっぱり俺は駄目なのか?)


そう思ったとき

(主の覚悟はこんなことで砕けるような

脆いものなのか?)と由銀が

直接、頭に語りかけてきた。


憑依中、

由銀と会話できると思っていなかった俺は、

驚きつつも

(そんな事はない)と返す。


(ならば、ボールを受け取れ。)


いつの間にか福田先生が

俺にボールを差し出してくれていた。


霊井たまい、大丈夫か?体調が悪いか?」


俺はボールを受け取り

「まだいけます!」と意気込む。


そして前を向く。


(主は腰を深く落とし

なるべく遠くに投げることを意識するのじゃ

サポートは吾輩がする。)


(わかった。)


俺は言われた通りに腰を深く落とし構えた。


(もっと遠くに!)


一瞬、腕に電撃が流れるような感覚があった…ような気がした。


俺が投げたボールは爆音とともに

かなり遠くへ飛び、

ボール投げで現状一位を取っていた赤崎の

さらに向こうに落ちた。


俺も含め、誰もが驚く。


俺は憑依の恩恵もないにも関わらず

あんなに遠くまで…。


気が付くとクラスのほとんどが周りにいた。

皆が口々に賛辞を送ってくる。


しかしそんな中、

計測役の表桜先生が走り寄ってきて

福田先生と何やら話した後、

福田先生が

「…言いづらいんだが、今の記録は無しだ。」という。


俺と周りのクラスメイトは皆、

頭にはてなが浮かぶ。


「…ボールが枠から出ていたんだ。

つまり今のはファールボール。

記録は先ほどのものが適用される。」


俺はそれから少しの間うなだれてしまった。


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福田は考えていた。

内容は零士のことだ。


彼は憑依しても身体能力は上がらなかった。

それは今日の測定中もそうだ。


…しかし、二回目のハンドボール投げのとき

彼は確かに身体能力が上がっていた。

その適応範囲は投げていた腕、

つまり右腕だけだが

その上がり幅はかなり名のある霊と同じか

それ以上だった。


これは本来ありえないはずの強化だった。


(…彼は一体何者だ。

そしてあの名のない霊は一体…)


いくら考えても

その答えの回答は見つからなかった。


――――――――――――――――――――


身体測定が終わり、俺は正明と一緒に

校門で千春を待っていた。


もちろん昨日のことを謝るためだ。


千春が出てきてこちらに駆け寄ってくる。


「「‥…。」」


気まずい。

でも言わないと。


「千春、昨日はごめん。

つい熱くなり過ぎた。」


俺はそう言って頭を下げる。


しばらくその状態が続く。


「…まぁ零士が熱くなっちゃうのは

昔からだし気にしてないよ。

顔、上げて?」


その言葉に従い俺は頭を上げて千春を見る。


「怒って…ないのか?」


そう答えた俺に、

千春は笑って「うん。」と答えた。


その様子を見た正明は

「仲直り…かな。」と笑う。


――――――――――――――――――――


帰る道すがら俺は二人に

表桜先生の電話の内容を話した。


「…その話、本当なのか?」と正明。


「零士はこういう話で嘘はつかないよ、

正明くん。」


「…この話をしたのは

俺が二人を信用しているからだ。

他言はしないでほしい。」


二人はそろって力強く頷いてくれた。


「それで、どうする気なんだ零士君。

通報はしたのか?」


その質問に俺は首を振る。


「通報しても証拠がないと

信じてはもらえない。


だから俺は表桜先生が

フールの人間である証拠を探す。


二人は表桜先生の不審な行動を見かけたら

俺に伝えてほしい。

くれぐれも勝手に突っ走らないでほしい。」


「それでは零士君が危険だ。」


「大丈夫だ。無茶はしない。」


千春はため息をつく。


「正明くん。

こうなったら零士はでも動かないよ。

それに零士には協力な助っ人がいるから」


「そういうことだ。

この件は俺に任せてれ。」


正明は渋々と言った感じで同意してくれた。



―あとがき

霊能戦記第九話「測定ノ刻」(後編)いかがでしたか?


零士のハンドボール投げは結局よくない結果でしたが

何かありそうですね。


次回からはやっと戦闘訓練が始まります。



それでは次回「戦闘訓練と一組の実力者たち」(前編)で

お会いしましょう。ノシ

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