第七話「召器の授業と最初の挫折」

少し心の整理がついた。


俺は「よし。」と気合いを入れ直した。


先生の言う通りだ。


霊能士として成功している人は

何も憑依が上手い人だけじゃない。


休憩時間が終わり

福田先生が教室に入り号令をかける。


「さて、次は召器について

実践を交えて教えていく。」


福田は黒板に図を描きながら説明していく。


「召器とは、霊の武器を召喚し

自らの武器とするものだ。

怪異に対抗するすべの一つでもある。」


そこで赤崎が手を上げる。


「なぁ、センコー。

召器をしたら霊の武器はどうなる。

まさか素手じゃねえだろ?」


赤崎の呼び方に反応するわけでもなく

福田は質問に答える。


「霊にもよるが

代替えの武器などに

持ち変えることが多いな。」


「だったら召器をした後に

霊とボコれるわけか?」


「そうだな。

憑依をせずに召器のみ行えば、

霊と共に戦える。


時には質よりも

量が必要となることもあるからな。

戦局によって使い分けることが重要となる。」


なるほど。

なら憑依が上手くいかない俺は

そっちがメインになりそうだな。


「話を戻そう。

次は召器を実際にやってみせよう。」


そういうと福田は紋にふれ唱え始める。


いにしえの武具よ。我が矛となれ。」


そう唱えると福田の手に刀が召喚される。


「これは土方の刀、名を和泉守兼定いずみのかみかねさだと言う。

武具はその霊の

一番名のある武具が召喚される。

次は皆の番だ。

召喚が出来たらグラウンドで訓練を行う。」


それを聞いたみんなは、召器に取り掛かる。


(よし、俺も。)


今度こそ成功してくれ…。


いにしえの武具よ。

我が矛となれ…。」


そう唱えると俺の手に刀が現れる。


成功だ。


全員の召器を見届けた福田は大きく頷く。


「それでは、各自グラウンドに集合だ。」


クラスメイト全員が

それぞれの得物を持ちグラウンドに向かう。


その姿はさながら

合戦に向かう武将のようだった。


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グラウンドに集合した俺たちは

順番に用意された怪異を模した的に

攻撃を仕掛けていく。


そして俺の番が来る。


刀を抜き放ち刀身を見る。


黒い、闇のように深い漆黒の刀身だ。


的に攻撃を仕掛ける…が切れない。


少し切れ目は入るがそれだけだ。


それから福田に止められるまで

俺は懸命に刀を振ったが

切れ目が増えるだけだった。


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授業が終わった後、

赤崎が俺の机に来てニヤニヤと笑ってくる。


「……なんだよ。赤崎。」


それに対し赤崎は堪えきれないかったのか

大笑いしだした。


「最高だよ!お前!憑依は効果なし。

武器もよくわかんねぇ黒塗りのなまくら!

これを笑わないで何を笑えばいいんだよ!」


耐えるしかなかった。

赤崎の言っていることは全て事実だ。


これが…俺の実力。


表桜先生がホームルームの為に

教室に入ってきたのを確認すると

ようやく赤崎は笑いをやめ自分の席に戻った。


表桜先生が連絡事項を話したが

俺の耳にそれが届くことはなかった。


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ホームルームが終わった後、

俺は全速力で学校を出た。


誰とも話したくなかった。


「待って!零士れいじ!」


その声が聞こえたのは

寮の建物が見えたときだった。


千春ちはる正明まさあきが息を切らしながら

追いついてきた。


俺は振り向くが視線は下を向いていた。


「零士君、気にする事はない。

赤崎君は言い過ぎだ、何もあんな…」


「いいんだ。赤崎は事実を言ったまでだ。」


正明が慰めの言葉を最後まで言う前に

俺はそれを遮るように声を発する。


「ははっ…笑えるよな。

憑依は上手くいかない、

武器は真っ黒でおまけになまくら。

無様だよな俺。」


「…そんなことないよ。

今日は調子が悪かったんだよ。

明日はきっと…」


「上手くいくわけないだろ!

子供の頃とは違うんだよ!」


はっと思い千春を見る。


千春は俺の声に驚いて少し怯えていた。


「言い過ぎだ!零士君!

千春さんがどれだけ

君を心配していると思っているんだ!」


分かっている。

千春はいつも俺を心配してくれた。


…でももう取り返しはつかない。


言った言葉はもう戻らない。


「……もう、ほっといてくれ。頼む。」


そういうと俺は寮に戻らずに走る。


後ろから正明の制止の声が聞こえたが

俺は止まらなかった。


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どれだけ走ったか

気が付くと川沿いの土手にいた。


俺は土手に座ると

川を見ながらため息をついた。


横にはいつの間にか由銀よしかねがいた。


「零士殿、千春殿に誤ったほうがよいぞ。」


「…聞いてたのか。」


「悪いとは思ったがな、

聞き耳を立てていた。」


「…なあ由銀。

…俺向いてないのかな霊能士。」


そういうと由銀は頭を掻いた。


「零士殿が悪いわけでもあるまい。

どちらかと言えば悪いのは吾輩のほうじゃ。」


「吾輩、記憶以外にも

なくしておるものがあったのじゃ。

……力の元とでもいえばいいか。」


俺は由銀を見る。


「力の元…」


「じゃから吾輩は今は弱い。

下手をすれば零士殿よりもな。」


「二つ助言じゃ。

「皆より劣っているのなら

それ以上の努力をせよ。

そしてそれ以上の心を持て」。

吾輩の生前の主の言葉じゃ。」


由銀は俺の頭を撫でてきた。


「お主は世界一の霊能士になる男のはずじゃ。

一番になるのは生半可な事ではない。


挫折も一度や二度ではない。


・・・じゃがそれを乗り越えた先には、

きっとより良き世界が待っておる。


主の最初の挫折はここじゃ。


挫折の先に何を見出せるか、

それは今からの主の頑張り次第じゃ。」


由銀は立ち上がる。


「今一度問おう零士。

お主が吾輩に求めるものは何じゃ。」


「俺の求めるもの…。」


(俺は霊能士になりたい。

やっぱり夢は諦められない…!)


覚悟を決め向かいあう。


「俺はやっぱり夢を諦めれない。

世界一の霊能士になる為に…

力を貸してくれ。相棒。」


「その心意気じゃ!」


その後、俺は由銀に素振りを見てもらった。


俺は挫折した。

ここがターニングポイント。


これからだ。


やってやる!



―あとがき

霊能戦記第七話「召器ノ刻」いかがでしたか?


今回、滅茶苦茶筆が進みました。

最後の立ち直りシーンは特に。


由銀がかっこいいと自分的に思います。

設定初期段階では由銀は

かなり残念キャラだったんですけどね…。


では次回「身体測定と不審な先生」(前編)で

お会いしましょう。ノシ

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