世にも悪魔の美少女の所業

丸尾裕作

第1話 侵略

「おかえりなさい、ご主人様」

家に帰ると、玄関にメイド姿の金髪美少女がいた。

ばたっ!

俺のバッグが落ちた音だ。

思考回路が停止して、体の力が抜けてしまったのだ。

「抱きしめたいぐらい可愛くて、天使が降りたかと思ったよ」

「ど、ど、どうも…」

金髪美少はすごくひきつった顔をしている。

なぜだろう?褒められたら喜ぶんじゃないのか、女の子は。

青ざめてぷるぷると震えているけど、体調でも悪いのかな?

「きゃあー! テレサちゃーん、お出迎えまでするなんて偉いわ!」

思わずびくっとしてしまうほど、家の奥からテンションが高い声が聞こえた。

お袋が年齢に見合わない花柄エプロンをつけたまま、走ってくる。

「はい! お母様、やっぱり日本のこの格好が大好きなんです」

 急に笑顔になり、金髪美少女、いや、テレサが俺に背中を、いや、背中を覆う長い金色ロングヘアを向ける。

 ふさっと揺れる、その髪のなびきに猛烈な美を覚えた。

「ん!お母様だと…誰なんだ、この萌える美少女は! お袋、教えろよ」

「メイド姿がよく似ってるし、本当にいい子なのねぇ。本当可愛すぎて、食べちゃいたいぐらいだわぁ!」 

裏返りそうな必死に叫ぶお袋は俺を平然と無視し、手を頬にあてて、恍惚な表情をする。

「食べないでください! お母様…」

母の冗談を理解できず、怯えた子鹿のように怖がる。

「この可愛さ、犯罪ものよ!」

照れた様子を見て、お袋が興奮して、自分の胸元に抱え込み、激しく頭をなでる。

あまりに声がうるさくて、きんきんと耳が鳴る。

「やめてください!」

 テレサは必死に抵抗するが、それがまたお袋をさらに興奮させる。

「うほぉー!」

母を大人として大丈夫かと時々疑いたくなる。

「おい、お袋 俺を無視するな!」

「あら? 徹。いたの。うるさいわよ」

「お袋ほどじゃねぇよ!」

自分の胸元から残念そうにテレサを解放し、忌々しげに俺を睨みつける。

お袋のそれまでの上機嫌は一瞬にして消え、ゴキブリを見るような苦い表情へと変わっている。

この態度の違いはあんまりだと思う

 男ならこの程度の理不尽な圧力に屈してはならないと思い、反抗を試みる。

「実の息子に対する態度にしてはあんまりだろ! クソババァ!」

「あん?」

「ひゃい! すいませんでした。ごめんなさい、ごめんなさい!」

 お袋がヤクザすらびびりそうな目つきで俺をにらみつけたので、土下座をして、自分の立場の哀れさを訴え、全力で許しを請う。

「今日からテレサちゃんが外国人留学生としてホームステイするのよ。 あんたのやるべきことを後にして、先に家事をやるようにしなさい!」

「俺の時間奪うなよ」

「あなたの部屋の物全部捨てるわよ!」

「喜んでやらせていただきます」

俺の弱者が生きるための7特技「早変わりの術」を光速で駆使した。

「あら珍しく素直じゃない!バカ息子のわりには、息子の成長にママは本当にびっくりしたわ、うふっ!」

 身分制度が現代の平和な日本にも存在することを世界に訴えたい。

 この鬼婆には誰も逆らえないというのが、我が家の規則だ。

「わたしの可愛い可愛いテレサちゃん、うちの大バカ息子と仲良くしてね」

「はい」

テレサと名乗る美少女はお袋の頼みに明るく、元気よく、笑顔で返事する。

お袋は上機嫌そうに飛び跳ねながら、その場を立ち去った。

「何か捨てられちゃいけないものでもあるんですか、ご主人様」

「まさかぁ! 俺は超真面目な高校生だ、そんなものは持ってないよ」

 エロ本なんていう卑猥な本は健全な男子高校生である俺は決して持ってはいない。

「そういえば、さっきお母様が肌色の本を持っていたような…って! どこに行くんですか?」

 健全な男子高校生な俺は全力で 母という敵を撲滅しようと思い、攻撃を仕掛けようとした。

「待ってください!」

とても魅力的な笑顔をしたテレスは俺の袖をいつのまにかつかんでいた。

「ご主人様、私も案内してください」

「え…まじで困ります」

 あの鬼婆ぁのことだ、何かしたに違いない。

「ダメですか…なんでもしますから」

「いや、これは失敬。案内しますよ。紳士なら当然じゃないですかぁ」

美少女に上目遣いで頼みごとをした時、断る男はいたら死ねばいいと思う。

「楽しみです、ご主人様のお部屋に行けるだなんて」 

 テレサは眩しい笑顔を俺に向ける。

二階のある、俺の部屋まで案内する。

単なる自宅の階段だが、天国の階段を登る気分だった。 

いやぁー、まじ幸せ。あれ…?なんか大切なことを忘れてるような…。

「ここが俺の部屋だ…」

がちゃ。

いつもは気にしないドアの音だが、妙に耳に響きわたる。

「男の子の部屋だぁ!」

テレサが顔に手をあてて、なぜか嬉しそうな表情を浮かべ、女性らしくとても可愛らしい。

そして、飛び跳ねるような足取りで中に入っていく。

俺はそんなテレサの様子に微笑みながら、後を追って部屋に入る。

「そうそう、これこれ!」

テレサちゃんが何かを持っているのを俺に見せた。

「どうしたの? テレ…ぎゃあー、俺のエロ本がぁー!」

俺はエロ本をテレサに見られたショックを受け、悲鳴を上げる。

そんな俺をよそにテレサが姿勢を正して、目を閉じる。

「神よ、聖なる裁きを今ここに!」

ビリッ!

「そんなひどいことしないでよ! うおー、俺の食費6ヶ月分が!」

俺の秘宝のエロ本をいきなり引き裂いた。

「あ、そうだ、一応こうしとおきましょう」

ボッ。

「燃やすなよ、完膚なきまでに俺の希望をなくすなよ」

 「ふぅー! また、この世の悪を一つ無くせました」

 テレサは汗を手で拭き、心底から満足した表情を見せる。

「鬼か! いきなりこんなひどいことするなよ!」

「え? 悪の根源を撲滅するのが私の役割ですから」

泣き叫ぶ俺に対して、自分のしたことが当然という素振りを見せる

 「は?」

「いい忘れましったけ? わたしはあなたという世界の悪魔を撲滅しに来た天使です!」

そうして、天使という名の悪魔が俺の日常を侵略する日々がいきなり始まった。

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世にも悪魔の美少女の所業 丸尾裕作 @maruoyusaku

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