第十一話 後始末。

 それから後については・・・・まあ、何時いつもの通りだ。

 ええ?

(どうしても聞きたい)って?

 仕方がないな。

 

 要塞兼研究室の中は、警察と、それから何故か陸自の制服を着た連中でごった返していた。

 中には知った顔も何人かいた。

 そのせいかどうか分らんが、何時もの如く、警官おまわりが俺を取り囲んで吊るし上げるということはなかった。

 この時ばかりは、自分の前職が有難いと思ったことはない。

 その中の顔見知りを捉まえて話を聞くと、ジョージからの連絡を受けて、すぐさま防衛省に話が行ったんだという。

 お役所仕事って奴もまんざらバカにしたもんでもないな。俺は思った。

 例の殺人光線だが、こいつは陸自の研究所に運び込まれ、一通りの検査が済んだのち、警察に引き渡され、分解され、東京湾に沈められることになりそうだという。

 ついでに”威力は?”と聞いてみたが、他所へ漏らすなよと言いながら、東京都内の一部ならば焼き払う程度はあるらしいとの事だ。

 ああ、忘れていた。

 桐原少佐と、日下軍曹の二人についてだった。

 俺の射撃の腕前もまんざらじゃないな。

 二人の傷痕は大したことはなく、命に別状はないとのことだ。

 軍曹はともかく、桐原少佐は俺が連れて帰らなくちゃならん。

 それが仕事だからな。

 ”渡す”

 ”渡さない”で、警察とすったもんだしていると、そこにはあの”陽だまり苑”の施設長氏がいつの間にか来ていて(用意のいいことだ)

『それには及びません。桐原さんは警察に引き渡して頂いて構いません。乾さんには約束のギャラはお支払いしますので』と来た。

 俺の知らんところで裏工作が出来てたって訳だな。

『・・・・私はまだ負けん。決して負けんぞ・・・・』

 手錠を嵌められ、車椅子に乗せられたまま、俺の傍を通り過ぎる際、少佐はこちらを睨み、低い声でそう呟いた。

 日下軍曹はといえば、車椅子も担架も拒否し、しかし同じように手錠を嵌められ、背筋を伸ばし、無言で後に続いた。

あの二人はどうなるか、と顔見知りに聞いてみたが、本当ならば私戦罪か内乱罪で、極刑となるところだが・・・・と言葉を濁した。

 どうやら秘密の内部資料とやらが、法務省やら、もっと上をくすぐったようだ。

 まったく、世の中ってのは薄汚く出来ているな。


それから三日後、丁度八月十五日。

俺は夏の暑い盛りだというのに、ネクタイにダークスーツを着用し、九段へと出かけた。

 あの神社の前では相変わらず”賛成”の”反対”のとかまびすしい。

 俺は大勢の参拝者を避けて大鳥居を潜り、本殿へと向かった。

 こんなにかしこまって神社なんかに来たのは、ガキの頃に両親に連れられて七五三に来て以来だ。

 日頃は無神論者を気取っている俺だが、今は監視付きの病院に半ば軟禁状態になってる少佐との代わりだと思えば、手前ぇの主義を少しくらい曲げたって、罰は当たるまい。

 本殿を出た時、丁度午後十二時だった。

 他の人間が歩いている中、俺は足を止めて帽子を取り、黙とうをした。

 たまには神妙になるのも悪くないもんだ。

                              終わり

*)この作品はフィクションです。

  登場人物、事件その他一切は、作者の想像の産物であります。

 

 


 

  

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孤独な戦争 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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