第十話 激闘 

『・・・・失望したよ』

 少佐は同じ言葉をまた繰り返し、そして付け加えた。

『いかに米軍の傭兵あがりだとはいえ、仮にも訓練を受けて来た男だ。少しは理解してくれると思っていたのだが。』

『俺の爺様も一応帝国軍人だ。だから一定の敬意は払ってるつもりだ。だがな、もう戦争は終わったんだ』

『我々の戦争はまだ終わっていない!』

 少佐はきっぱりした声で言い切った。

『理念のない戦争なんかしたって意味があるとは思えんがね・・・・それに、畏れ多くも大元帥陛下の詔勅とやらが下ったんだぜ。まさか知らない訳もなかろう』

 流石に元軍人だった。

”畏れ多くも大元帥陛下の”という俺のフレーズに、二人が反応して不動の姿勢を取ったのには、思わず吹き出したくなった。

『・・・・我々の戦争は終わってない。たとえ陛下の詔勅があろうとなかろうと、この日本にもう一度背骨を取り戻す!それが出来るまで戦う』

 俺は椅子から立ち上がった。

 軍曹が背後で俺の背中に銃口を突き付け、ボルトを操作するのが分かった。 

『その背骨を取り戻すとやらが、あんたらの戦争の理念かね・・・・じゃ、仕方がない。』

 俺はそう言って、卓子テーブルに手を伸ばし、M1917にを取った。

『動くな!』

 日下軍曹の声が響く。

 だが俺はそいつを無視して拳銃を取り、シリンダーに銃弾を詰めた。

 なあに、ハーフムーンクリップだ。

 二回で満タンになる。

 後ろから銃声がした時には、俺は既に振り返って軍曹の肩を撃ちぬいていた。

『貴様!』

 今度は桐原少佐が、己の左腰のバカでかいホルスターから、十四年式拳銃を抜くと、迷うことなく俺に銃口を向け、引き金を絞る。

 

 だが、今度も俺の方が早かった。

 俺の銃口から.45ACP弾が二発、少佐に命中した。

 銃弾は一発は背後の機械に、もう一発は少佐の左腰に命中していた。


 俺は少し足を引きずりながら少佐に近づき、十四年式を拾い上げ、弾倉を抜き、卓子テーブルの上に置き、後に下がってうずくまっていた日下軍曹の傍に行くと、今度は九九式から弾を抜き、簡単な止血手当を済ませた。


『何故だ・・・・何故殺さない?』

 苦しい息の下から、少佐が恨みがましい目つきで俺を見上げる。

『俺は殺し屋じゃない。テロリストでもない。あんたらを殺すのは料金の内に入っちゃいないんでね。さっきも言ったろ?』

 しばらくすると、ポケットの中から呼び出し音が鳴った。

”ダンナ、警察サツには連絡しといた。パトカーのサイレンが聞こえて来たぜ”

 なるほど、確かにそう伝えるジョージの声の背後には、少なくとも10台はあろうかと思われるパトカーのサイレンが聞こえているのが、俺の耳にもはっきり分かった。

 

 



 

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