第七話 ”少佐、現る”

 どのくらい歩かされたろう。

 所々に切れかかった蛍光灯がぶら下がっている薄暗い坑道のような通路を、俺は両手を上げさせられて歩いていった。

”軍曹殿”は、銃剣を装着した九九式短小銃を突き付け、鋭い目を更に鋭くして

 俺の後ろから着いてくる。

 あれから、俺の武装解除を巡って下らないやり取りを繰り返した。

”渡せ”

”いや、断る”

 10分は続いたに違いない。

 結局向こうも折れ、俺がシリンダーから弾丸タマを抜くことと、ホルスターに収めることを条件に、拳銃を渡すことは免れた。


 まあ、仕方があるまい。

 ここで軍曹殿とやり合って、無駄ダマを使うよりはましだ。

 俺は何度か笑えない冗談を言ってみたが、歩き始めてからというもの、向こうは、

”黙らんか”

 というばかりで、それ以上は何も言おうとはしない。


 10分ほどあるいたろうか?

 いや、曖昧な表現は止そう。

 きっかり10分、間違いない。

 俺達は山の中腹から頂上近くに向けて歩いた。

 え?

”時計も見ずに何でわかったのか”だって?

 見損なっちゃいけない。

 俺を誰だと・・・・いや、自慢話は止めておくとしよう。


 俺はまたもや巨大な鉄扉の前に出た。

 軍曹は俺に小銃を突き付けたまま、前に回り込み、片手で扉の中央にあるスイッチを押す。

『誰か?』

 くぐもった声が上から響き渡った。

 よく見ると喇叭ラッパ型のラウドスピーカーが備え付けてあった。

『日下軍曹であります。侵入者を発見し、捕縛致しました!』

『・・・・入れ』

 スピーカーがまた響いた。

 すると、鉄扉が鈍い音を立て、内側に向かって開いた。

 軍曹は銃口で俺に”先に入れ”と合図を送る。

 俺は相変わらず両手を上げたまま、中へと足を踏み入れた。


 かなり広い部屋だった。

 畳敷きにして30畳ほどはあるだろう。

 正しく”懐かしの東映特撮か、はたまた1960年代はハリウッドのB級SFのマッドサイエンティストの実験室そのものだった。

 その中に・・・・彼はいた。

 夏用の大日本帝国陸軍の軍服に身を固め、白衣を羽織ったその男。

 頭髪は既に真っ白だったし、皺もそれなりにあったが、鋭角な顔立ちは、立ち枯れた老人と言った雰囲気は感じさせない。

 襟章は赤い地に金筋三本に星二つ。

 間違いない。少佐殿だ。

『桐原少佐殿に報告!日下軍曹は不審者を拘束し、連行致しました!』

 軍曹は小銃を立てて敬礼をし、声を張り上げて報告を行った。

『ご苦労』

 桐原”少佐”は、敬礼に応え、俺に向かって、

『君は何者で、何の目的で此処へ侵入を試みたのだね?』

 俺は何も言わず、迷彩服のポケットに手を掛けた。

 軍曹が剣付き鉄砲の筒先を俺に突き付け、

『貴様!』

 鋭い声を俺に掛けた。

 すると少佐は彼を手で制した。


 俺はポケットから認可証ライセンスとバッジのホルダーを出し、少佐に見せた。

『私立探偵・・・・認可証?』

 俺は頷くと、ホルダーをしまい、

『良かったら掛けても宜しいですか?少佐殿?』

 と、傍らの椅子に目を向けた。

『ああ、構わんよ』

 俺はわざと音を立ててバックパックを降ろし、椅子に腰かけた。

『この男、拳銃を持っとります。少佐殿!』

 忠実な軍曹は背後に立ったまま、また申告をした。

『すまんが銃を見えるところに出して、テーブルの上に置いてくれんかね。私は銃を隠し持った相手と話が出来る程大胆ではないのでね。』




 

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