第六話 侵入

(とんだ歩哨ほしょうだな)

 俺は倒れたそいつを、軍靴の爪先で蹴ってみた。

 弾痕からは線香花火が落ちかける時みたいな音を立てていたが、もうまったくの無反応だ。


 俺はそいつを尻目に、鉄扉にかかっている南京錠に手を掛けた。

 錆びてはいるが、随分としっかりした鍵である。

 次に俺はポウチからゴム粘土の塊みたいなやつを取り出し、そこへ小さな発信機を取り付け、2~3メートル後ずさりすると、腕時計の数字を見ながら、カウントを取った。

(On!)

 俺はポケットに突っ込んでいた手の中のスイッチを押す。

 鍵は小さな音を立てて弾け飛ぶ。

 プラスチック爆薬だ。

 ここでもレンジャー時代の経験が役に立ったな。

 教官と助教に怒鳴られながら叩き込まれた爆破のタイミングが実に上手く行った。

 鉄扉はモノの見事に穴が開いている。


 俺は片手にM1917を構え、片手で鉄扉を押す。

 中は湿ったコンクリートの臭いが鼻を突いた。

 どこからか水が滴る音が聞こえてきた。


 だが、それとは別に、何か他の音が聞こえてきた。

 足音だ。

 それも人間のものではない。

 鉄の靴でコンクリートを叩く音、歯車がきしむ音。

 俺は壁の出っ張りに蜘蛛のように貼り付いて身を隠す。

 足音は次第に大きくなる。

 

 間違いない。

 俺が倒した歩哨と同じロボットだ。

 しかも今度は2台と来ている。

 丸い黒眼鏡のような目が、舐めるように辺りを見渡す。

 躊躇ちゅうちょしている暇などなかった。

 俺は飛び出しざま、拳銃を二発発射する。

 二発は狙いたがわず、1台に当たり、奴はへなへなとむき出しになった床の上に倒れた。

 もう一台が百式の銃口を俺に向け、引き金を絞る。


 一発が俺の頬をかすめ、肉を2センチほど切り裂いた。

 俺は残りの弾丸たまを奴にぶち込んだ。

 三発は全て命中し、奴も倒れた。

 

 幾らロボット(いや、この場合は人造人間とでも呼ぶべきかな)でも、射撃は正確だ。

 発射した弾丸の内、頬の肉を削ったのと、もう一発は右の太腿ふとももに当たっていた。

 幸い、こちらも掠めただけで、薄く血がにじんでいるだけだ。

(俺という男は、つくづく運のいい男だな)

 心の中でそんなことを呟きながら、奥へ奥へと進んでいった。


 しわがれてはいるが、鋭い声が俺の耳を打った。

 暗闇に目を透かして見る。

 一人の男が銃を構えて俺の前に出てきた。

 それを観て俺は吹き出しそうに・・・・いや、吹きだしてはいかん。

 向こうさんは極めて真面目なのだ。

 頭の天辺から足の先まで、旧大日本帝国陸軍の軍装で固めている。

 構えているのは、九九式短小銃。

 なかなか良いチョイスだな。俺は思った。

 こんな狭い洞窟要塞の中では、三八式みたいな長さの小銃じゃ、取り回しに厄介だからな。


『武器を捨てて手を挙げて貰おう。何者かは知らぬが、侵入者は容赦せん。』

『冗談じゃない』俺は答えた。

『そっちが武器を構えてるってのに、はいそうですかと丸腰になれるものか。こっちだってそれなりの覚悟でここへ来ているんだ』

 仕方ない。

 男はそういうと、銃口を下ろした。

 俺も彼に合わせるように、ホルスターに拳銃をしまう。


 わずかな灯りの中に出てきた男は、もうかなりの年配だった。

 70代後半・・・・いや、ことによると80を超えているかもしれん。

 古びた戦闘帽に軍服。腰に銃剣の鞘。

 襟章は金筋一本に星一つ。伍長殿って訳だ。


『人造人間3体はどうした?』

 俺は首を振って地面に倒れた奴らを示す。

『いい腕だ。あれだけ完璧な連中を簡単に倒すとは』

『冗談じゃない。こっちだって2発喰らったんだ。あ何時等だってなかなかの出来だったよ』

『とにかく一緒に来てもらおう』彼がまた九九式の銃口を上げる。

『分かった。穴の中を這いずり回る手間が省ける。桐原弥一氏に会わせてくれるんならな』

『桐原少佐と言わんか!』

 しわがれた鋭い声がまた俺に飛んだ。


 



 





 

 

 


 

 

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