第五話 出動

 一週間後、時刻は午前1時30分。

 俺はジョージのハンドルで、真っ暗な闇の中、甲州街道をひた走りに走っていた。

 彼はこの日の為に足回りを強化したトヨタのランドクルーザーを調達してくれた。

”せっかく金をかけたんだからな。後で貰うだけのものは貰うぜ”

 口だけはいつも通り達者だが、チューンナップとドライビングテクニックは流石に一級品である。


 岡田山の麓に着いたのは、午前2時をすっかり回っていた。

 俺はバックパックを担ぎ、車から降りる。

 都内とは言っても、さすがに民家は少ない。

 それらも灯りは消えていて、静まり返っていた。

『で、オイラはどうすりゃいい?』

 ジョージが運転席から声を掛けた。

『無線で知らせる』

 俺はそれだけ言うと、彼にトランシーバーの片割れを渡した。

『気を付けていきなよ』

 彼が珍しく心配そうな声を出したが、俺はそれには答えず、暗闇の中で手を振ってみせた。


 山の上り口には、頑丈な鉄扉が設けられてあった。

”無断立入りを禁ず”鉄扉の正面にそう書かれた札が風に揺れていた。

 高さは2メートルちょっとというところだろう。

 天辺には鋭い有刺鉄線が幾重にも巻かれてある。

 上がるのは造作もないが、万が一ということも考えられる。

 俺は鉄扉の一角にある潜り戸を探ってみた。

 ごつい南京錠が掛って居る。

 俺は背中に手を回し、バックパックの横を開け、中から道具を取り出した。

 探偵七つ道具って奴だ。

 そこから金鋸を取り出し、南京錠を切断にかかった。

 万能鍵という手もあったが、時間が惜しい。

 俺の選択は間違っていなかった。

 約30秒とちょっとで、錠はフックになっている部分が見事に切断された。

 潜り戸を押すと、軋みながら内側に向けて開いた。

 俺は辺りを確認すると、山の中に足を進めた。


 標高1000メートル足らずとはいえ、かなり急な勾配をしている。

 足元を確かめながら、俺は一歩一歩足を踏みしめながら上がっていった。

 腕時計を星明りに透かして見る。

 あれから凡そ20分は経っていた。

 50を少し過ぎたおっさんだ。

 普通なら足腰に来るところだろうが、痩せても枯れても元空挺レンジャーは伊達じゃない。

 このくらいじゃまだ屁でもない。


 そこから更に上がっていくと、恐らく山の中腹くらいに来た。

 暗闇の中に、何やらコンクリートの建物が見えた。

 いや、建物というのは正確ではないな。

 コの字を逆にしたトーチカの入り口のようなものだ。

 錆び付いた鉄扉が見える。

 俺は木陰に隠れ、良く確認する。


 鉄扉の前に人影が見えた。

 どうやら一人のようだ。

 鎧と軍服を混ぜたような、珍妙な格好をしている。

 手には・・・・武器を持っていた。

 間違いない。

 あれは大東亜戦末期に作られた、百式機関短銃というやつだ。

 俺は左腋のホルスターから拳銃を取り出す。

 わざと足元の小石を踏み、音を立ててやった。

 そいつは無言でこちらに顔を向け、銃口で狙いをつけ、連射をしてきた。

 

 だが、俺の方が一瞬早かった。

 弾丸を避け、額に目掛けて3連射した。

 最初の銃撃戦はそれで終わった。

 相手は崩れるように膝から倒れて行き、それきり物音を立てなかった。

 10秒ほど間を置いて、俺はトーチカの入り口に歩み寄った。

 人かと思ったが、そうではなかった。

 そいつはガスマスクのような顔をしたロボット・・・・いや、機械人間であった。

 

 

 

 

 



 




 

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