第八話 告白 前編

 仕方ないな。

 俺は何も言わず、ホルスターからM1917を抜き、シリンダーを振り出すと、傍らのテーブルに置く。

『さあ。こんどはそっちも幾らか譲歩する番だぜ。』

 俺の言葉に、

れたことを抜かすな。君は捕虜なのだぞ。』

桐原少佐はそう言いながらも、俺の脚と頬の傷を見て、後に立って、まだ銃剣と銃口をこちらに向けたままの日下軍曹に手で合図をした。

 ちらりと後ろを見ると、軍曹は渋々と言った体で、銃を下ろす。


『ついでといっちゃあ何だが、飲み物くらい出しちゃくれないか?少佐殿なら国際法くらい知らんわけはなかろう』

 俺の言葉に、桐原少佐はまた合図を送る。

 日下軍曹は踵を付けて敬礼をすると、相変わらず俺の方へは胡散臭げな視線を送りながら、後へ下がり、しばらくすると盆にカップを二つ載せ、まず一つを少佐の前に置き、一つを俺の前に置いた。

 

 モカの香りが俺の鼻を突く。

『遠慮なくやりたまえ。毒など入っておらんから』

 彼はそう言いながら、まず自分がカップを取り、口を付けた。

『・・・・』

 続けて俺もカップに口を付けた。

 なるほど、悪くない。

 上等なコーヒーだ。

『いい時代だな。大戦末期には代用コーヒーってもんだったって

 死んだ祖父じいさんに聞かされたもんだ』

 少佐は何も答えない。

 黙ってコーヒーをすすった。

『さあ、これだけの待遇をしてやったんだ。今度は君の番だ。一体何でこの山に来たのか、それを教えて貰おう』


『さっき見せたろ。バッジと認可証を?俺は探偵なんだ。ある人物に依頼を受けてね。あんたを連れ戻しに来たのさ。』

『それだけやって、君は幾ら貰えるのだね?』

『一日六万円と必要経費。プラス四万円の危険手当。』

『それだけかね?』

『そうだよ』

 俺はそう言ってコーヒーの残りを飲み干した。

『依頼人が誰かと聞いても話はすまいな』

『当たり前だろ。それは業務上の秘密ってやつさ。たとえ拷問されてもな』

 少佐は笑いながらカップを置く。

『たったそれだけのはした金で業務上の秘密も何もないものだろう』

『はした金でも金は金だ』

『口の減らん男だ』

 少佐は椅子から立ち上がると、操作盤の前に移動し、スイッチを押した。

 すると、目の前の壁がゆっくり音を立てて開く。

 壁の向こうはガラス窓になっており、そこには巨大なパラボラアンテナ、いや砲台のようなものが据え付けられてあった。

『私がやろうとしている大義に比べれば、はした金だよ』

『これは?』

『殺人光線砲・・・・私が自分の財産と技術を費やして作り上げたものだ。』

 

 殺人光線砲。

 確かにそんなものがあったらしいというのは聞いたことがある。

 だがそれは超超爆撃機“富嶽”やら、空飛ぶ戦車の類と同じく、

『架空決戦兵器』の類で、試作機は出来たが、せいぜいゾウリムシを焼くぐらいの能力しか発揮出来なかったと言われている。


『こんなものが出来ていたとはね。知らなかった。それであんたはこいつで何をやろうとしているんだ?まさかまたゾウリムシでも焼こうとしているわけでも

ないだろう?』

『ゾウリムシ?冗談ではない。確実に人を殺せる。しかも一瞬にして万単位の人間をね』





 



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