異変

 GW明けからでしょうか。

 出勤すると心臓がバクバクとうるさく鳴り、全身で脈打つ感覚が退勤するまで止まらなくなったのは。

 呼吸が浅くなっているのかな、と思い深呼吸をするようにしましたが、中々治まりませんでした。救心必要ですか、なんて頭の中でふざけられていたので、まあ暫くたてば治まるでしょ、と軽く見ていました。ですが、治る様子はなく眩暈や立ち眩み、頭痛も加えて出始めました。帰宅すれば心臓は穏やかになるのですが、寝る前になると再び煩くなり、夜も寝付けなくなりました。私の身体は、睡眠時間は6時間以上必要でした。朝は5時半に起きなければならないため、遅くても23時には就寝してましたが、夜中の2~3時まで寝付くことができなくなっていました。時には、意識がずっと浮上したまま夜が明け、5時半になってしまったこともあります。

 当時は自覚がありませんでしたが、異変はこの頃から出始めていたと思います。先述した点の他、

 ・出勤時、園が近くなると息苦しくなる。

 ・調理室に入るのが怖い。

 ・頭がボーとする。

 以上が早期で見られました。

 ですが、調理室に入ってしまえば動き回ったり、リーダーと調理師さんと会話したりすると、いつも通り振舞えたので気持ちの問題だと思いました。


 また少し時時間が経ち、ある日手が空いたため頂いた指摘を字に起こしておこうとメモ帳を開きました。でも、ペンを握った私の手は動きませんでした。

 …あれ、何を言われたんだっけ…

 ついさっき聞いた内容を思い出せませんでした。どう動いていたか記憶を辿り、何を言われたか思い出そうとしましたが、一部分ぽっかりと記憶が抜けており、どうしても思い出せませんでした。

 まずい、このままじゃ明日同じ指摘をさせてしまう。ひどく焦りました。結局リーダーに再確認を取り事なきを得ましたが、次第に一度では聞き取れない、覚えられない、理解できないといった状況になっていきました。理解の点に関しては、調理室を出てもう一度考えるとクリアすることができました。それでも、これまで以上に迷惑をかけてしまう可能性が大きい、なんとかしなければと思いました。


 症状が改善しないまま5月中旬に入ると、今度は胃の調子が悪くなり始めました。いつも通り朝食を摂ると、吐き気と胃痛が顔を見せたのです。

 お腹冷えたかな~、まあ、昼には治ってるだろうと思いそのまま出勤しました。調理室に入ると気にならなくなり、治ったと思いました。その日は、昼食以降平気だったため、冷えで終わらせました。

 ですが、その日以降症状は悪化しました。いつも通りの量を食べると動けないほどの腹痛、吐き気もひどくなり、次第に食べる量は減りました。主食と主菜、副菜と口にしていたものが、主食と主菜になり、おにぎりと豆乳に変化、ひどい時は豆乳だけ飲んで出勤するようになりました。それでも胃痛と吐き気は改善することはありませんでした。



 ********* 

「ねぇ、大丈夫?」

 5月下旬になると、会う人全員にそう言われるようになりました。研修で2ヵ月ぶりに会えた同期、上京したことで6~7年ぶりに会えるようになった幼馴染、同じタイミングで上京した高校からの2人の友人。一番驚いたのは、研修中に本社の方に肩を叩かれ、そう聞かれたことでした。

 そんなにどっか変?と聞くと、全員口を揃えて


「顔色が悪いよ。」


 と言いました。まだマスクをしていたその頃、色に指定は無かったため研修でも暖色系のカラーマスクを着けていました。顔色が良く見えると聞く暖色系を着けていても顔色が悪いって、私一体どんな顔してるんだと思いました。

 実際、自分では顔色を見ても分かりませんでしたが、新たに体調に変化はありました。

 不謹慎ですが、車を見ると、後遺症が残らない程度に事故に遭わないかな、なんて思ったり、曇天でも外が眩しく感じ、女性や子供の声、店内BGMなど、比較的高い音が変に耳に響くようになったりしていました。

 自律神経乱れてるのかな~、と思いながらも病院に行くほどではないと思っていましたが、全員またも同じ言葉を発したため、一度病院に行くことにしました。


「1回病院行ってきな、大分やばいよ。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る