先輩の言葉。
31日、配属先への出勤が始まり4日目。つまり約束の4日間の最終日。
前の3日間は要約すると、物の位置や流れを見学、微々たる作業への参加…以上でした。さらに、自分で自分にかけた
覚えなきゃ、あと2日しかない等々、焦りに侵食され切っていたなと、今思います。メモを残し、一日の振り返りと次の日にどこを改善すれば良いか考える。PDCAサイクルを学生時代に習慣化していた私は、教わったことを忘れないようメモに残してしました。じっくり考えて、自分が理解できるように噛み砕いて復習する工程が必要であることを実感していたからです。
ですが、現場は時間に追われる業務。現実はそれを良いこととはしませんでした。
「そんなメモをとる余裕はないよ、見て覚えて。」
この言葉は間違っていません。確かにそうです。やりながら覚えて、少しずつ慣れていくものだと私は思います。それでも、3人いる先輩方が忙しなく動いている姿のどこを優先的に覚えれば良いのか分かりませんでした。均等に3人を観察して、記憶して、休憩中にメモをまとめる。これを個人的に繰り返していました。
自分から学びに行かなければ、そう思っていた私は、質問や業務内容について確認をとるなど、聞きたいことを聞くようにしていました。ですが、
「それは今覚えなくていい。」
質問はほとんど受理されなかったのを覚えています。
まずは疑問をもつより覚えてから疑問を持て、そんな感じでしょうか。
疑問に思うと深堀しがちな癖が、場所によっては良くないことを痛感しました。
ああ、今私が疑問に思ったことは、今解決するべきではないんだ、もっと優先しなければならないことがあるだろう…てことかな。毎日怒らせてばかりで申し訳ないなと、自分の不甲斐なさと罪悪感が芽生え始めました。
話しは戻って、4日目。
調理業務に関することは、忙しいのを承知で確認をとりながらできることを行いました。答えてもらったら、必ずお礼を言うことは忘れませんでした。ありがたいことは、本当でしたから。
私は、どうにか
「失敗できないからね。」
この言葉が、間違いのない事実でも結構重い枷となりました。そして、
「次回はもう、
これもまた重い枷となりました。
園の給食は2週間サイクルで、午前おやつ、昼食、午後おやつ、補食の調理がありました。遅番は、この中で午前おやつの準備と午後おやつの調理、補色の用意を基本一人で行います。午前おやつと補色は難なく覚えられたのですが、午後おやつだけはどうしても怖くて仕方ありませんでした。
一回目は見て覚えて、2週間後は自分でやる…いや無理なんだが???自宅で試作しないと私慣れないし怖くて仕方ないんですけど…
一人でできる気がしません、そう素直に告げると、じゃあ分からなくなったら聞いて、と返されました。そしてもう一言。
「
だから私と一個上の先輩を同じにしないでくれ、切実に。クローンじゃないんだから。
喉まで出かかった思いをなんとか飲み込みました。言ったら終わることは重々理解していましたから。
栄養士のリーダーと調理師の方が席を外し、
「…ねえ、大丈夫?」
そう突然言われました。え、私気づいていないだけで、とんでもないことやらかした…?と焦りに焦りました。
「私、何かやらかし…」
「リーダー、言い方きついところあるでしょ?」
「え」
数秒の沈黙の後、
「まあでも、言われることは間違っていないですし、厳しく指導してくださるのって、有難いことじゃないかって思っていますので…」
こう答えました。いつリーダーたちが戻ってくるか分かりませんでしたし、下手に思ったこと全て吐き出すべきではないと思いました。でも、この言葉に嘘はありません。怒ってくれる人がいる有難さを知っているつもりでしたし、何より、小さな命を預かっている現場ですから。
「私がきちんと覚えられれば、あんなに怒らせてしまうことはないですよね。」
他人を責める前に、自分が直すべきところを直す、これを心掛けていたので、続けてそう言いました。
「あれは、正直慣れしかないから、そうなるかな。」
そう返されました。うん、そうだよね。でも、これは零してもいいかな…あと、純粋に聞きたい。
「正直、明日から不安しかありません。先輩は、去年私と同じように4日間で仕事覚えたと聞いたのですが、心がけていたことはありますか?」
何か、明日以降の私にとってヒントになる点があるかもしれない。そう思い尋ねました。
「できるようになるまでは時間かかったよ!後は聞いて少しずつ慣れていくしかないかなぁ…。」
「…そうですよね~、もっと頑張らないといけないですね。」
先輩は、私じゃ敵わないほどの努力をしたんだろうな、と思いました。なら、私はもっと努力しなければならないとも。
そして先輩は、実はね、と言葉を続けました。
「私、本当は半年で辞めようと思ったんだ。」
…え??
「でもさ、この会社って、辞める3か月前に言わなきゃいけないでしょ?」
そうなると入社してすぐだから、一年頑張ったんだよね、と告げられました。
「どうして辞めようと…」
聞かずにはいられませんでした。理由があるなら、聞きたかった。
「通勤時間がすごくかかるっていう理由があるんだけれど、あとはリーダーが怖くて!」
…最後の最後でとんでもない爆弾落とされた…
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