ある学校のコンサート~二大美少女に萌えよ、野郎ども
丸尾裕作
第1話
噂が噂を呼ぶ、ダブルプリンセスのコンサート。
俺たちの学校では、ダブルプリンセスが人気すぎて、学食代やジュース代、そして、バイト、インターネット、ネットオークションなどなどありとあらゆる手でお金を稼ぎ、野郎どもの資金により年に一度だけコンサートを学校のホールで大々的に開くことを可能にしている。世間からも注目されるぐらいであるので、学校の方もそういった裏事情を黙殺している。事実、これのおかげで男どもの倍率がやたら高く、偏差値も高くなっているから、男の性欲に対する熱意というものは馬鹿にできたものではない。
※
コンサートが始まる前の独特の高揚感と緊張で辺り一面がざわついている。
あたりの視界が暗くなる。
ライトがまばゆくちかちかと舞台が点灯した。
「さぁー、今年もこのイベントがやってきました!新入生歓迎ライブ!司会はこの2年山田太郎が御送りします!」
正装で真っ赤なネクタイをつけ、眼鏡をかけたさわやかな男がステージのスポットライトを浴びて、登場する。華やかな雰囲気とカリスマ性を体全身から醸し出されて、顔も端正な方といえる。
「たくさんの有志の中でみなさんはわざわざ私を選んでくださいました。精一杯努力させていただきます」
礼儀正しさもあり、人気と実力がある感じを漂わせる。
「見たくもないわ」
「ネクタイきもい!」
「名前地味なんだよ!」
「その頭かち割られたいのか? 調子に乗んな、ぶち殺すぞ!」
ひどすぎる大ブーイング。
彼のすべてというすべてがけなされていて、さすがにかわいそうだ。
「応援ありがとうございます!」
なんという強烈なメンタル!
人生の修羅場をくぐり抜けたせいか、この状況にまったく動じていない。
ひどすぎるともいえ、逃げたくなる人間が多いであろう罵詈雑言に動じない鋼のメンタルには尊敬の念を送りたい。
「まぁ、そんな!ファンの方々、ぶぅーぶぅーと、豚の泣き声みたいな声で応援しないでください、照れるじゃないですか!」
単なる馬鹿だった。
「そんなこんなで僕への大歓声が聞こえる中…」
『勘違いするな』
男女問わず、多くの人びとの声がハモった。
「みなさん、ツンデレっぽくしても無駄ですよ、て・れ・や・さ・ん!」
山田はウィンクまでして、女っぽい声をした。
『おぇー!』
50人ほどの男たちがばたばたと倒れた。
「会場の皆様! 大丈夫ですか? 救急隊の皆様、急いで処置を! まったく誰だ、こんなことをしたのは」
『あんたでしょ!』
会場で生き残った人々はのらりくらりと立ち上がり、呆れ声でやじを同時に飛ばす。
救急隊が手慣れた感じでタンカーを使って。男たちを運んでいく。
「さぁ、むさくるしい奴らが何匹か立ち去ったおかげで会場も涼しくなりましたね」
「………」
会場がしらけている。
山田は慌てる様子を見せる。
「盛り上がっているか―い!」
観衆に呼びかける山田。
「Yeah!」
さっきはさっき、今は今。
うちの生徒のノリはとてもいい。
「のってるかー!」
「おー!」
またしても、ノリにのる。
「勉強は嫌いか―!」
「おぉー!」
山田は教師がものすごく睨んでるのには気づいていないようだ。
「では…男子高校生の親がいないときにすることは?」
よりいっそう教師がにらみにつけている。
『司会みたいに18禁サイトに入る!』
男たちはみな一致団結をして、唱和する。
人間はばらばらな考えを持つはずだが、なぜか息ピッタリである。
「そんな私の事実を…ん?ぎゃあー!」
司会が教師に鉄拳制裁をくらった。
げらげらとした声が会場の各所から聞こえる。
殴られて当然だ。
女性観客がいる前で下ネタぶっぱなさせる醜態をさらし、男たちはにやにや笑っていた。自分たちもおちぶれているはずだが、司会がおちぶれるだけなのでまったく気にしない。
人の不幸は蜜の味ってわけらしい。
「そ…れでは、つ、次の…方にまいりましょう」
教師の鉄拳制裁をくらった満身創痍の司会を見て、生徒たちは大爆笑する。
魔王にやられた勇者が民衆のために立ち上がるクライマックスのシーン並みに満身創痍であるが、それでも立ち上がったようだ。
「あら、薄汚い豚みたいになってまだ人間でいられるあなたが不思議ですわね」
目を細めて、どことなく妖艶な様子で笑っている美しい女性が現れる。
『うぉー!』
『きゃあー!』
突然の彼女に登場に、男子も女子も声をあげる。
「おっと、ステージに登場したのはなんとあの前評判の高いダブルプリンセスの一人、ほのぼの嬢、またの名を癒し姫、星海ほのだぁー! どうも暖かい言葉をありがとうございます!」
山田は目を丸くして、興奮気味に叫ぶ。
「あなた、耳大丈夫? 私、暖かい言葉なんて言ってないわよ、冷たい事実を告げただけよ、現実を受け入れなさい」
「私はあなたが目の前にいう暖かい現実だけを受け入れます」
「あら、バカでアホ、救いようないですね」
「あ、面目ありません、あなたの美しさと癒やしボイスの前では仕方ないんですよ」
ほの嬢の美貌を見て興奮しない奴はいないだろう。山田は息を荒くしているが、変態だと思われ、嫌われる心配はしていないのだろう。
「あらあら、こんなひどいこと言ったのに、本当ありがとね、私とっても嬉しいわ」
目を三日月のように細めて、とても幸福そうに笑うほの様。
『うっしゃあああああああああ!』
『きゃあああああああああああ!』
学内の人間の興奮も止まらなくなってきた。
ムチで叩かれまくった後に突然与えられるあめに観衆は歓喜を隠すことができない。
『プリティ、キューティ、チャーミング!』
ほの様はにこにこしている。
『素敵で、最高、世界一!』
ほの様はにこにこしている。
『美人で可愛い、お姉様!』
「やだ、もう、そんな、照れるわ」
『可愛いいいいいいいいいいい!』
「やだ、もうやめて、恥ずかしい!」
顔を赤くして、そわそわしているとても可愛いほの様。
「あらあら、我らのほの様がでれでれですよ、可愛いですね、癒やされますね」
「黙りなさい、調子人乗らないで、似合わないネクタイつけてるキモトーク全開変態さん」
そこは真顔のほの嬢。
「おっと、これは痛烈! 手厳しい! しかし、しかし、ほの様は、可愛くて、美しい、だから、何をやっても?」
『許されるぅうううううううううう!』
「もうやめてよ」
ほの嬢は下を向いて、ぷるぷる震えている。
「本当にお馬鹿さんばっかり! 仕方ない、歌ってあげましょう」
ほの嬢はまっすぐに顔を開けると、深呼吸を何回か繰り返す。
静かになると、アップテンポの音楽が流れ始める。
ほの嬢が歌い始めた。
『本当バカばっかりで、面倒よ! はぁーあ、一緒にいるこの時間がどれほど無駄なのか分からないの』
最初から罵倒全開のセリフ。
『一緒にいてくださってありがとうございます』
男共もバカばっかりである。
いつもこんな感じである。
『アホ、ドジ、間抜けー、おたんこなす、あなたは欠点しかない』
とても幸せそうに罵るほの様。
くず、あんぽんたん、おたんこぴーまん、うざうざ人間、マシンガンのように罵詈雑言が浴び出てくる。
「ほの様は何をしても許されるぅうううううううう!」
「もっと私を罵ってください」
「お姉様、私をしごいてください!」
しかし、男どもののボルテージはどんどん上がっていく。
女の子ですらもテンションを上げさせるほどの妖艶さ、そして歌のうまさゆえに罵詈雑言がただの鈴の音にしかからない。
「しかたないから! 優しい私めんどうみてあ・げ・る」
最後は癒やしセリフで曲は終了し、そわそわしながら、ほの様が小さくお辞儀をする。
『ありがとう!』
『きゃあー、お姉様』
歓喜の声が次々とわき上がる。
「いやぁ、本当は一緒にいたいという乙女心の詰まった曲をありがとうございました」
「バカじゃないの、あなたが勝手にそう思ってるだけでしょ、解釈は人それぞれよ」
「まぁ、そう照れないでくださいよ、ほの様」
『ほの様可愛いいいいいいいいいいい!』
「本当、バカで脳天気な人間は幸せそうでいいわね」
ほの嬢がぷいっと立ち去ってしまった。
「照れるほの様も本当可愛いですね」
山内がちらりと時計を見る。
次の演目が始まるようだ。
「ではでは、美しき金髪の美少女、宮奈美鈴!またの名をツンデレ姫!」
会場は盛大な拍手に包まれる。
「誰がよ!」
山田が興奮気味にナレーションに怒る美鈴。会場があたたかい笑いに包まれている。
もうキモイだけの男もいるがな。
「ここで今は質問タイム!」
タキシードにまったく似合わない赤いド派手なネクタイを直してから、美鈴にマイクをむける。
「今日は誰のためにお出場になられたんでしょうか? やはり、ファンのためですか?」
「別に、あんたたちのために歌ってんじゃないわよ!」
『ふぅー!』
男たちの大きな歓喜の声が上がる。
「違うわよ!馬鹿」
顔を真っ赤にしながら横に向ける。
『ふぅー!!! 可愛いよ』
「だから、違うってば! あんたたち、人の話を聞きなさい!」
「ありがとうー! ツンデレ姫!」
美鈴親衛隊のファンと思われるものから熱い声援が送られる。
「私はツンデレじゃない!」
さっきよりより大きな歓喜の声が上がる。しかも女性の声も混じる。
「ただ、私が歌いたいから歌ったの!」
顔を真っ赤にさせて、足を地団太に踏んで、否定をしようとしている。
「以上、ファンのために歌うと宣言したツンデレ姫でした!」
『ふぅー! ありがとう!』
「こらぁー!違うわよ!あたしのために歌うの!」
周りを見渡すと、男たちはほほえましい様子で真っ赤にして恥じらっている美鈴の姿を見守っていた。
美鈴は深呼吸をすると、顔を引き締める。やけに明るい音楽が流れ始め、目の色を変える。突然、顔を横に向ける。
『べ、べ、べつにあんたのためじゃないんだからぁー!』
歌の初っ端のセリフがツンデレのセリフである。
きゅんとして、つんつんと耳に響き、ふわふわしている声である。
「ふぅー!」
「生きててよかったぁー!」
「最高」
「俺たちののテンションマックスマックスハート!」
テンションが上がり過ぎて男たちが叫んでいた。
『でもでも、あなたのことが好き好き!』
「俺の嫁来たぜぇー!」
自分に恋していると勘違いする幸せそうに騒いでいるものが多い。
その後もウィンクをしたり、踊りを完璧にしていた。
「だ、だ、だだだ! 誰よ! こんな曲選んだの」
「どうも、テンプレートなツンデレをありがとうございました」
「誰がよ!」
「そんなキャラで疲れないんですか?」
「馬鹿にしてんの! 素よ、素のあたしよ!」
「みなさん、美鈴さんは本物のツンデレですよ」
『ふぅううううううう!』
『あんたたちなんか大嫌い!』
ツンデレ姫だが、恥ずかしそうにお辞儀をして、舞台から去った。
さくらんぼみたいな真っ赤な小さな顔だった。
俺たちのコンサートはこんな感じでとても楽しい。
次回いつ開催されるかをいつも楽しみなものだ。
そして、今日も我々男たちは食費をけずることから、バイトで、親との交渉、ネットオークション、あらゆる手段でお金を貯め始めていく。
なぜか、コンサートの開催以降、ここらへんの地域の景気が良くなったり、治安がよくなったり、住みたい町ランキング上位へとなったりしてるが、とても楽しい生活を送れている俺たちとはきっと無関係なはずだ。
ある学校のコンサート~二大美少女に萌えよ、野郎ども 丸尾裕作 @maruoyusaku
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