第六章 海からの略奪者

ロディに惚れていたという魚介類の行商人・レームが、サラへ宣戦布告!

第029話 お魚屋さんがやってきた!

 ──水無月五日(晴れ)


 水田の稲の先は、わたしの膝の高さまでになって……。

 そこへ上ったアマガエルたちが、虫をもにゅもにゅ食べています。

 稲の害虫のウンカは、集中的に食べちゃってくださいねっ!

 それーっ!


「……………………」


 うーん……やっぱり気持ち通じないですかぁ。

 わたしはあの沼で生まれ育ったサンショウウオの守り神。

 同じ両生類でも、眷属じゃありませんからね。

 ……さて、そろそろわたしも、ランチの時間です。

 きょうのお昼は……待ちに待ったお寿司!

 お米とお刺身が合わさった、とっても美味しいごちそうだそう!

 これからロディさんが呼んだ職人さんが、車でやってきますっ!

 国道の手前……うちの棚田の最下段まで、夫婦で下りてきてお出迎えですっ!


「え~っと、お寿司屋さんの車は、白いトラック……ですよね。あっ、ロディさん! もしかして、いま上ってきてるあれですかっ!?」


「いえ。ああいう感じの車ですが、違いますね。それにあれはナンバープレートが緑色なので、輸送業のトラックです」


「へええぇ……。ナンバープレートって、色にも意味があるんですねぇ。そのお寿司屋さんのナンバープレートは、何色なんですか?」


「白地に緑の文字ですが……。そうせっつかなくても、レームさんは予約の時間を違えませんので、安心してください。ははっ」


「レームさん……。女の人っぽい名前ですね」


「ええ、女性です。ベテランの漁師さんでもあり、腕のいい出張料理人でもあります。サラさんが食べている海産物も、彼女が獲ってたものですよ。ですからきょうはぜひ、お礼を伝えてください」


「あ、はいっ! もちろんですっ!」


 へええぇ、女性の漁師さんかぁ。

 漁師さんと言えば、広い海の上へ出て、お魚の群れを網でたくさんすくったり、大きなお魚と竿や銛で格闘したり……。

 きっと筋肉モリモリのたくましい人なんでしょうね~。


「おっと、噂をすれば……ですよ。レームさんのトラック、来ました」


「あそこの、大きな箱を載せた車ですねっ!」


「ええ、車載コンテナですね。あの中に冷蔵庫、水槽、調理台があって、新鮮な魚介類をその場で調理してもらえるんですよ」


「うわああぁ……! 夢のようなお車……♥」


「ここの空地へバックで停めさせますので、サラさんは上の段まで上がっていてください」


「はーい!」


 お台所がある車なんて、そんなのあるんだっ!

 まだまだうちの台所も満足に使いこなせてないけれど……それでも乗ってみたい!

 でも、わたしは……。

 そこの国道を境に、移動できない身。

 嫁入りして眷属となったロディさんの土地しか、生きられない……。


 ──キッ…………バタン!


「やあ、レームさん。お待ちしてました」


「よお、ロディさん! 相変わらずの優男っぷりだねェ! ヘヘッ!」


 あっ……。

 レームさんって……若いっ!

 ロディさんがベテランの漁師だって言ってたから、オバサン想像してたけど……。

 二十歳過ぎ……くらい?

 スラッとしてて、背が高くて脚も長くて……。

 顔つきは凛々しくて、切れ長の目で、ちょっと男前!

 オオカミみたいにあちこち跳ねた黒いロングヘアーに、ところどころ白いメッシュ入ってるのもワイルドでかっこいい。

 両目の下には、鼻の上を通過して真横に走ってる、古そうな傷跡……。

 漁でついた傷……なのかな?


「きょうはアタシに、寿司握ってほしーんだって?」


「ええ。握り寿司もお得意だと聞いてはいましたが、なかなか頼む機会がなくて。ご足労すみません」


「こっちゃ魚運ぶのが商売だから、礼言われる筋合いはねーよ。そのために買った、この愛車だしなぁ。ところでよぉ?」


「なんでしょう?」


「最近よーく魚買ってくれるし、きょうはいよいよ手料理食わせてくれってか。こりゃあ、なーんか期待しちまってもいいのかなぁ。ヘヘッ♪」


 レームさん……野性味溢れる印象だったけれど、話してる姿はきれいなお姉さん。

 肘と膝から先が破れたデニムの上下に、インナーはへそ出しの黒いシャツで、ガラ悪そうだったけれど……。

 歯を見せてよく笑ってるし……本当は親しみやすそう?

 仲良くしてもらえる……かな?


「ところでロディさん、あそこでチラチラこっち見てる女の子は? 背格好から察するに、従姉妹か姪っ子かい?」


「妻です」



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