第023話 計画!

 ──皐月二十二日(晴れ)


 ジャンさんの新聞の発売日。

 巨大サンショウウオ……すなわちわたしの特集は、一週分予定を早めて、きょうの発売分に載るそうです。

 実物見ちゃったんですから、当然急いで記事にしますよね……アハハッ。

 いまその新聞を、ロディさんが麓まで買いに行ってて、わたしはそれを、水田の傍らで待ってます。

 田んぼにはもう、眷属はいません。

 ことし生まれた子たちは、みんな大人になりました。

 水が張られたままの田んぼでは、アメンボたちがすいすいと水面を移動中。

 わたしの息抜きのために、ロディさんが水を抜かずにおいてくれてます♥


「……サラさん、お待たせしました。『ニッチ・ペーパー』、買ってきましたよ」


「あっ……お帰りなさいっ! 記事、どうでしたどうでしたっ?」


「おおむね、僕が期待していたとおりの内容ですね。荒廃した登山道。薄暗い沼。山奥へと消えた巨大サンショウウオ……。情報量は多くもなく、少なくもなくの、ちょうどいいバランスです」


「でしたら……!」


「ええ。これからしばらくは、ほどほどのこうが、ほどほどの人数、山へ入るでしょうね。これで、行政へ提出する登山道管理ボランティアの計画書に、説得力が増します」


 登山道管理ボランティア計画。

 ボランティアグループで山道をきれいに保つ、ロディさん発案のプロジェクト。

 わたしが棲んでた沼、そして山の水源を復活させるために、ロディさんが頑張って考えてくれました。


「計画書、少しずつ書き進めていたのですが、どうにも決め手に欠ける内容でして。ですがこれにて、新聞記事がきっかけで入山する者が増え、登山道を整備しなければ危険……という大義名分が立ちます。記事の切り抜きも添えるとしましょう」


「人が行き交うだけでも、道が踏み固められて藪が減りますしね。イノシシも沼へ近寄りにくくなります」


「半面、ゴミのポイ捨てが増えるかもしれません。それは僕が定期的に回収するとしましょう」


「わたしも手伝いますっ! あ……いえ、夫婦で一緒に山をきれいにしましょう!」


「その意気です。サラさんの故郷ですから、手伝うという部外者意識ではダメですよ。この計画の主役でいてください」


「はいっ!」


「ところで……。一つ、誤算がありました」


「えっ? 誤算……?」


「これです──」

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