第022話 略奪!
──ざばああぁああっ!
「「ひっ……出たぁ!」」
お二人の目の前で、立ち上がって見せて……っと。
まずは……。
カメラマンさんから、カメラを奪うっ!
ええいっ!
──ガッ!
「うわあっ!? ジャンさん、カメラ取られましたっ!」
「バカッ……なにしてるっ! 早く取り戻せっ!」
「無茶言わないでくださいよっ! あんなデカいのに近づいたら食われますって!」
……いや、食べませんけれども。
あー……でもこのカメラマンさん毛深いから、突然目の前に現れたらイノシシと間違えて、口に入れちゃうかも。
まあ、それはさておき……。
奪ったカメラは……繁みへと放り投げるっ!
ええーいっ!
──ザッ!
「「うわーっ!?」」
あとは、登山道を駆け上がって……身を隠すっ!
登山道と言っても、もうほとんど藪に埋まってますけどっ!
──ザザザザザザッ!
「……ジャンさん! カメラ……見つけましたっ!」
「よしっ、追うぞ! せっかく奴が実在したのに、写真がなけりゃあ記事にならんっ! 部数にならんっ!」
「そ、それにしても……。あいつ、真っ先にカメラ狙ってきましたよ! それも、人間が掴むような動作で!」
「ああ、俺も見たっ! ありゃあ意外と知能高いかもしれん! ひょっとすると、意思疎通ができるかもしれんぞっ!」
いまのいままで、お話ししてたんですけどね~。
さて、お二人の意識が上へ向いている隙に、わたしは人間の姿に
「……あ~んっ、ロディさ~ん! 怖かったです~!」
「大丈夫ですよ、サラさん。あなたのことは必ず守ります。すみませんジャンさん、僕は妻が心配なもので、もう山を下ります」
「わかりました! ここまでのご協力、感謝しますっ! よしっ、行くぞっ!」
──ザザザザザッ!
おおー、さすが未確認生物の取材班。
果敢に藪を掻き分けていきますねー。
その先にお目当ての生物がいないのは、ちょっと心苦しいですけれど。
「……サラさん、名演でしたね。あの二人、上手く引っ掛かってくれました」
「いえいえ。すっごい棒読みで、お恥ずかしい限りです~♥」
「いえ。僕が名演と言ったのは、沼から現れてカメラを放り投げたところですよ」
「あっ。『怖かったです~』は、やっぱり棒読みだったんですね……。でもロディさんの『あなたのことは必ず守ります』も、名演でした。わたし、惚れ直しそうです」
「あれは演技ではありませんよ。そもそもこの作戦、サラさんを守るためのものですからね。ははっ」
「そ、そうでしたね……。アハハ……」
……そう。
いま夫婦でやり遂げたのは、わたしの故郷、この山を守るための作戦。
あとは、あの記者さんが書いた記事が、新聞に載るのを待つだけ──。
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