第020話 取材!

「──やあ、こんにちは。わが社にご用ですか?」


「こちらの社員さんですか?」


「ええ。一応、長の立場にいる者です」


「ほお、その若さで社長さん! わたしはニッチ文芸社の『ニッチ・ペーパー』記者で、ジャン・グロールと言います。で、あっちはカメラマン」


 新聞記者さんと……カメラマンさん。

 ってことは、うちの会社の取材……かな?


「『ニッチ・ペーパー』……。週刊の娯楽紙ですね。たまにで恐縮ですが、買ってますよ」


「それはありがとうございます」


「ですがあいにくとうちはもう、新規の新聞を取るつもりはないんですよ。日刊三紙に、農業の機関紙を購読しているもので」


「さすが社長さん、勤勉ですなぁ。あ、うちは戸別配達こはいはしていません。きょうは取材で、営業ではありませんのでご安心を」


「取材……。わが社をですか?」


「いえ。取材先は、そちらの社屋の背後にある山です。あそこに巨大なサンショウウオが棲んでいる……という噂、聞いたことないですか?」


 ──どきっ!

 も……もしかして、取材対象……わたしっ?

 わたしを探しに来る人たまーにいたけれど、いよいよマスコミデビュー?

 ああでも……わたしはいまや人妻。

 人前へ出るには、夫の意向を伺わなきゃ!

 その旦那様の反応……は?


「ええ、存じてますよ。人の背丈の何倍もあるという、大物らしいですね。昔からある噂話です」


「話が早い! うちではいま、未確認生物を取り上げた連載企画をやっておりまして。今度取り上げるネタが、その巨大サンショウウオなんです。いま、目撃情報を集めているんですが……。社長さん、目撃者に心当たり……ありませんか?」


「……いえ、ないですね。昔から噂だけはありますが、具体的な目撃例はないんですよ。大きな影を見たとか、手形のような足跡を見たとか、そういうのばかりで」


 ……うんうん!

 わたし極力、人前に出なかったので!

 ロディさんに見られたのも偶然……。

 ……ううんっ、あれは必然の出会いっ!


「そうですか……。では、お嬢さんは?」


 ぎくっ!

 わ……わたしですかっ!?

 え、えーと……。


「あの……そうですねぇ。わたし、ここへお嫁に来たばかりなので、旦那様が知ってる以上のことは、なにも……。オホホホ……」


「おや、奥様で。これは失礼」


 ふーっ……。

 変なボロ出なくてよかったぁ……。

 根掘り葉掘り聞かれる前に、よそのお宅へ回ってもらうよう誘導してくれないかなぁ……ロディさん。


「……ジャンさん。時間の都合で途中までにはなりますが、よろしければ登山道の案内をしましょうか? 登山道は荒れていて、ところどころ途切れていますから、初見で進むのは危ないですよ」


「ほう。それはありがたい!」


 ……はい?

 ちょちょちょちょ……ちょっと待ってくださいな、わが夫様。

 その親切、仇になりそうな気配プンプンなんですけどー!

 ここはひそひそ話で、考え直してもらうしか……。

 ううぅ……ロディさん背高いから、限界までつま先立ちしないと耳に届かない~!


ちょっとひそひそ……ロディさん」


なんでしょうひそひそ?」


あのですねひそひそ、記者さんたちに根掘り葉掘り聞かれて、うっかり口滑らせちゃうってことも、あるかもしれませんよ~。小さな親切、大きなリスクです~」


はははひそひそ、実はちょっと考えがありましてね。こういう企みなんですけど…………」


 ……ふんふん。

 ……ふむふむ。

 ……ほうほう。

 ……なるほどぉ!

 さすがわが旦那様、瞬時にピンチをチャンスに!


なのでひそひそ、サラさんにも協力してもらいますよ」


「任せてくださいっ!」


 あっ……。

 勢い余って、大きな声出しちゃった……。

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