第二章 モフモフ小姑 VS ヌメヌメ新妻

幸せがたくさん詰まった旦那様のおうち。でもそこには、モフモフな小姑が……。

第007話 サンショウウオをダメにするベッド

 ──夜が明ける。

 棚田から見える、遠くの山の向こうの空が、なんだか複雑な色。

 赤と紫が混ざってるような、不思議な空の色。

 あれが朝焼け……っていうのかな。

 高い木々に囲まれた沼からは、見えなかった景色。

 人間が……ううん、わたしたち両生類が生まれる前から、あの太陽とあの空は、あったのかもしれない。

 それをいままで見たことなかったわたしって、本当に井の中のかわず……じゃなくって、沼の中の山椒魚さんしょううおだったんだなぁ……って。


 まあとりあえず、眷属のお引越し完了!

 ふううぅ……疲れたぁ。

 ここと沼、何往復したかなぁ……。

 陸に上がって肺呼吸になった子は、背中に乗せて……。

 お水の中のエラ呼吸の子は、水と一緒にお口へ入れて……。

 この水田へダッシュ!

 おかげで眷属すべて、広くてイノシシもいない新居へ移動!

 ここの水田、みんな気に入ってくれてるようだし、よかったぁ!

 しばらくここで生活して……。

 荒れた山と沼を復活させる方法、ロディさんと一緒に探すの!


 それにしても……。

 ロディさんの土地、山の際まであったから助かったよぉ……ふう。

 わたし、自分の土地から離れると、生命力ゴリゴリ削られちゃうからなぁ。

 ロディさんの家があとちょっと麓寄りだったら、危なかったかも。

 だから、棚田の向こうに見える街も、その先にある海も、わたしは行けない。

 欲を言えば、街へは行ってみたいなぁ……。

 まだ食べたことがない海のお魚、海のカニ、海のエビ……海の魚介類。

 かわいいお洋服、アクセサリー、海の魚介類。

 まったく別の人生を夢想できる小説、漫画、そして海の魚介類。

 お化粧品、海の魚介類、香水、魚介類。

 魚介類、魚介類、魚介類……。

 ああああーっ……すっかり魚介類の口になっちゃったー!

 海の幸、食べてみたーいっ!


 でもその前に……寝よう。

 夜通し引っ越ししたから、もう眠くて眠くて……。

 田んぼの泥の中で、一眠り……。

 目が覚めたら、人間の姿でロディさんちへあいさつしに行こ……。

 ああ……ふかふかの泥が、とっても気持ちいい……。

 これ……サンショウウオをダメにするベッドだよぉ…………くぅ。

 すぅ……すぅ……すうううぅ…………。

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