第五章 写真家・サラ
すっかり写真撮影にハマってしまったサラ。その被写体は独特で……。
第025話 人間失格(文字通り)
──水無月一日(晴れ)
ロディさんから貸してもらってるカメラに、すっかりハマっちゃいました。
写真集め、夢中になってます。
ここ最近ずっと、お夕飯の下準備すませたら、写真テーブルに並べて、眺めてニマニマ……。
旦那様がお仕事に出てる間も、写真で会えるからうれしいっ!
ほかにも、稲の生長、面白い形の雲、国道を走る珍しい車、わたしが作った不格好なお料理……。
いろんなものを撮って、並べて、見出しつけて……な日々。
写真があれば、字を書くのが苦手なわたしも、日々の思い出を綴れます。
「…………ふぅ」
わたしはサンショウウオの化身。
ロディさんは人間。
いまは新婚ラブラブいちゃいちゃだけれど……。
もしかすると、いつか、いつか──。
別れなきゃいけないときが……来るのかも。
だから、わたしが奥さんとして過ごした記録を、毎日毎日残します。
妻のお仕事頑張ってるわたしの、業務日誌を──。
──ガチャッ……バタン。
「──ただいま、サラさん」
──パタパタパタパタッ!
「お帰りなさい、ロディさんっ! きょうも一日、お仕事お疲れさまでしたっ!」
「ははっ。サラさんの出迎え、堂に入ってきましたね。駆けてくるスリッパの音も、ずいぶんとリズミカルになりました」
「えっ、そうですか?」
「ええ。うちへ来たてのころは、足音ぎこちなかったですよ。人間の姿に、まだ慣れてなかったんでしょうね」
「そ、そうだったんですか……。自分ではぜんぜん気づきませんでした。お恥ずかしいです……アハハハ……」
「とはいえあのぎこちない音も、一生懸命出迎えてくれてるのが伝わって、心地よい響きでしたね。あれが聞けなくなったのは、少々残念です」
「えー……じゃあときどき、お酒飲んでお出迎えしましょうか? 酔っぱらって、あっちへふらふら、こっちへふらふら……」
「うーん……。酔っぱらった奥さんの出迎えは、仕事帰りにはちょっときついですねぇ。ははは……」
「ですよねー。アハハハ……」
ロディさんのこの苦笑い、好きなんですよね~。
頭に手を当てて、背を反らして、両方のほっぺたを、くいっと上げて。
苦さ一、笑い九、くらいな感じ。
その点わたしの苦笑いは、背を丸めて、眉ひそめて……。
苦さ三、卑屈三、笑い四……くらいかな?
そのうちこのロディさんの苦笑いも、写真に収めなくっちゃ。
あっ……写真と言えばっ!
「ロディさんっ! わたしの写真、ですけど……」
「ええ。写真館にも、ちゃんと寄ってきましたよ。はい、おとといの分の現像です」
「うわぁ! ありがとうございますっ!」
「それからフィルムも買い足しました。あとでカメラへセットしておきますね」
「はいっ!、お願いしますっ!」
フィルムをカメラへセットしたり……とか、そういう細かい作業はまだまだ苦手。
カメラの扱い、シャッター切る以外なーんにもできなくって、一日働いてきた旦那様に頼りっきり…………。
「……って、すみません玄関で長々と! お夕飯の準備しますから、シャワーで汗流してきてくださいっ」
「ああ、お願いしますよ」
あああ~、わたしってばカメラにハマりすぎっ!
これじゃお嫁さん失格!
っていうか……人間失格!
こんな調子じゃ離縁されて、ただの巨大サンショウウオへと元通りっ!
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