第002話 うう~……遅刻遅刻!(幻覚)

「うう~……遅刻遅刻~! 転入初日に遅刻なんて、みっともなさすぎる~!」


 トーストを口に挟んで、通学路を駆けるわたし。

 あの角を曲がれば、きょうから通う学園まで一直線。

 新たな学園ライフに期待膨らませすぎて、興奮で遅くまで寝つけず。

 からの寝坊。

 小さな子どもかわたしはっ!


 ──ドンッ!


「きゃっ……! いった~い!」


 曲がり角に差し掛かった瞬間、なにか硬いものに当たって弾き飛ばされた。

 鼻の頭とお尻が、ツーンと痛い。


「もお……。下ろしたてのスカートに土がぁ……。ふええぇ……」


 ぶつかった硬いもの。

 それは、背の高い男の胸板。

 あの制服は確か、これから通う学園の男子の……。

 彼はわたしを心配するでもなく、手を差し伸べてくるわけでもなく、無言で見下ろしてくる。

 ぶっきらぼうに「へ」の字に曲げた口からは、「ごめんなさい」が出る気配皆無。


「ちょっと! 曲がり角走ってこないでくださいっ! 危ないじゃないですかっ!」


「……走ってきたの、おまえだろ。家に忘れモンでもしたのか?」


「はあ? いままさに、登園するところなんですけどっ!? 正確に言えば、記念すべき初登園なんですけどっ!?」


「……転入生か。学園ならド反対だぜ。ほれ、あっちの最初の交差点を、左だ」


「えっ……?」


 尻もちついたままで、肩越しに後方確認……。

 ああ……確かに下見で確認した順路、あの交差点だぁ……。

 うああぁ……真逆に向かってたぁ!

 転入きっかけに、ドジっ子返上する気満々だったのにぃ。

 さっそくドジかましちゃったぁ……。


「あ、ありがとう……ございます。それから……ぶつかって、すみませんでした」


「まあ、別にいいけどよ。おまえ、ほっぺたにイノシシの脚、ついてんぞ」


「はああぁ!?」


 わたしがくわえてたのは、トースト……。

 ……って!

 イノシシの後ろ脚のひづめが、口の端っこに引っ掛かってるっ!

 ほっぺにイノシシの脚……ついてるっ!


「……にしても、ウチの学園も変わってんな。サンショウウオを転入させるなんて」


「えっ? ええっ?」


 サ……サンショウウオって……。

 わたしは花も恥じらう乙女…………あれっ?

 手はプニプニ、お肌はヌルヌル……。

 口は大きくて、尻もちついてるお尻からは、長い尻尾……。

 ああぁああぁああっ……!

 わたし……サンショウウオだったああぁ────!

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