第04話 ……わたしってきれいですか?

 ────ぶわわわわっ!


 わたしの体表のぬめりが、黒い蒸気になって……。

 その靄の中で、わたしは巨大なサンショウウオから、落葉色(※1)のワンピースに身を包んだ、小柄な人間の少女へと姿を変える──。

 眷属の女神として持ってる能力の中で、一番の大技……変化の術。

 変化中は生命力をたくさん消費するけれど、いま大物を食べたばかりだし大丈夫。

 あとは……変化後の姿が、いったいどうなるか。

 さっきの妄想みたいな、「人間の服を着たサンショウウオ」にならないよう……神様頼みますっ!

 あっ、わたしも一応神様だっけ……。


 ──しゅううぅううぅ……。


 黒い靄が晴れだして、その中から現れた、薄肌色の両手。

 細くて長い指が、両手に五本ずつ……。

 爪は血色のいい桃色……。

 人間の手……人間の、女の子の手!

 とってもきれいで、かわいい手!


「ふう……。変化の術……ひとまず成功っ!」


 足は……?

 へええ~、手に比べて指、ずいぶんと短いんだ。

 でも丸っこくて、お行儀よく揃ってて、こっちもこっちでかわいい。

 こんな小さな足で全身まっすぐ立てるんだから、人間ってすごい……。

 ……っとと、尻尾!

 尻尾が残ったままだったら、頭隠して尻隠さず!

 えと、えと……お尻確認、お尻確認……。

 ……あっ、人間の体って、自分で自分のお尻見えないんだ。

 じゃあ、手でお尻さわって…………。

 ……………………。

 ……よかった、尻尾ないみたい。

 ふうぅ~。

 髪の毛は……けっこう長い……かな?

 前髪は眉まで。

 サイドは肩まで。

 後ろ髪は……腰くらいまで?

 色は……黒寄りの濃い緑。

 ところどころ明るい緑なのは、サンショウウオ時の体表が由来……かな?

 じゃあ、残るは肝心の…………ごくっ。


「あ、あのぉ……ロディさん?」


「なんでしょう?」


「わたし……。ちゃんと人間の女性に、見えてます?」


「……えっ? ああ……ええ、見えてますよ?」


「ほっ……。よかったぁ……」


「いやしかし……急に変身するから、驚きました。それとも……元が人間で、一時的にサンショウウオへ化けてました?」


「そこは、サンショウウオからの……人間です。アハハ……。ところでそのぉ……。わたしの顔って……どうですか?」


「えっ?」


 ……そう、顔!

 せっかく人間に化けたんだもん!

 きれいな顔がいいっ!

 それに……そうでないと、これからロディさんへするお願い、聞いてもらいにくくなるから……。

 ……この変化の技は、自分が思い描いた人間の姿へはなれない。

 あくまで、わたしを人間化したら……な基準で、容姿が決まる。

 だからなんとか……いい顔お願いっ!


「あの……。わたしの顔……きれいですかっ? あ、いえ……せめて人並み……ですか?」


「あー……えっと……。きれいって、いうか……」


「……いうか!?」


「かわいい……可憐……タイプですか。美人と呼んでも差し支えないけれど、愛らしさや愛嬌が優ってる印象……ですね」


 ……っしゃあ!

 顔面偏差値、平均以上っぽい!

 いけるっ……言えるっ!

 この流れなら……!

 ロディさんの水田へ引っ越すための、最難関の要求をっ!

 そのためにも、まずは深呼吸して落ち着いて……。

 すううぅ…………。

 ……あ、ダメっ、深呼吸ストップ!

 落ち着いたら素に戻って、絶対臆しちゃう!

 無茶なお願いは、変化の勢いに乗せてこのまま……一気にっ!


「あ、あの……ロディさんっ!」


「はい」


「わ、わ、わ……わたしを……。お嫁にもらってくれませんかっ!?」


「ええっ……?」



(※1)おちいろ。茶色に赤味や黄色味が混ざった色。沼の底に蓄積していた落ち葉が衣装となっている。

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