住宅街のフランス料理店(2)

店内は無音だった。


事前に調べたところによれば、このお店は夫婦で営んでおり、この女の人はシェフの妻らしい。


「おひとりでしょうか。」

「はい、ひとりで。」


扉のすぐ側の席に案内された。この席からは厨房が見えない。無言で水とメニューを渡される。


メニューは一部手書きの写真無しで、フランス料理に造詣の無い私は、料理名の語感で選ぶしかない。ランチコースがあり、肉か魚で選べるようだ。


最近、肉が食べられなくなった。豚や牛の薄切りを焼くと、人間の肉を焼いた気分になり、複雑な気持ちになるのだ。ベジタリアンの中には、肉を生理的に受け付けない人もいると言われたことがあるが、こういう気持ちにもなるのだろうか。


私の場合、鶏肉なら食することが出来るようで、どうやら四本脚でなければ良いらしい。今日の肉料理は鶏の手羽元の赤ワイン煮だそう。折角なので、ランチコースの肉料理を頼んだ。


「クロワッサンかサフランライスを選べます。」

「ライスでお願いします。」


ここの店員は必要最低限のことしか話さない。水を飲みながら、そんなことを思った。


(続く)

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