住宅街のフランス料理店でご飯を食べる

古田地老

住宅街のフランス料理店(1)

夜勤明けはいつもお腹が空いている。疲れた日は特にだ。天気が悪いと忙しさが何倍にもなり、軽い朝食に、と持ってきた菓子パンを食べる時間も無い。そんなときは、菓子パンを次の日勤の昼食にして(そんなこともあろうと、パンの賞味期限は長い)、 帰宅ついでに外でブランチとする。


「ブランチ」と言えば格好が付くが、要は朝食を食べ損ねたので、お昼を少し早めに食べるということだ。 早くにお店へ入れば、昼休憩の客で席が埋まる前に食に辿り着く。混み始める前に会計を済ませれば、店員にも待っている客にも迷惑にはならないだろう。


今日は社宅近くの歯医者に書類を出す用事があり、いつも降りる駅のひとつ前で降りた。住まいのすぐ周辺や会社のある市街地では、よく散策することはあるが、その中間、況してや縁のない住宅街に立ち寄ることはそうそう無い。折角の機会なので、この周辺のお店をスマホで検索した。


最近、お腹の調子が頑強ではなくなったので、油とスパイスを多量に使った中華とインド料理は考えない。それ以外の料理で、今の気分に合うのは……と考えたが、疲れもあるし、この場から一番近いお店を選んだ。フランス料理店だという。


11時半の開店まで、10分ある。ゆっくりと向かおう。


普段歩かない住宅街の狭く細い道を歩く。こんなところに何十センチも雪が積もったら、どこに捨てればいいのだろう、と雪国に住んでいた頃の思考になる。雪国では大量に積もった雪は、道の側に備え付けられたようにある、用水路みたいな川に流していた。ほとんどの小さな河川が暗渠となっている関東の都市圏では、どこにも雪が捨てられず近所トラブルになるのではないか、とそんな多くの雪も降らない街で要らぬ心配をする頃には、そのフランス料理店に着いた。


扉の看板はまだ「CLOSE」だったので、少し店前で待っていると、50〜70代の女性が(女の人の年齢は見た目では分からない) メニューの書いた看板を手に、外に出て来た。


「いらっしゃいませ……お待たせしました。」


彼女はそう私に呼び掛け、「CLOSE」の看板をひっくり返した。


(続く)

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