第38話


 この前、レイナの家に行って話を聞いたけど、はっきりとは教えてくれなかった。

 ただ、教えてくれたのは一時的なものだということ。

 第3陣先行プレイできるまでの即戦力を鍛えて、MVPを取るのだと言っていた。


 どういう相手か知らないが、そこそこ以上の腕があるのは間違いない。

 VRゲームにハマっているレイナが即戦力というのだ、そんな相手と会いたくなるのも無理はない、と思う。


 だから今日18時、妹と一緒に来たのだが、昼過ぎには帰ってきて家でいると叔母さんは言っていた。

 レイナの部屋に行き、ノックするが返事はない。


「レイナ、入るよ」

「別に確認しなくても、いいのに」

「一応は必要でしょ」


 入ると、部屋は暗くPCの音も聞こえない。

 壁にあるスイッチで電灯をつけると、レイナはベッドで寝ていた。

 VR機を着けていないから、ただ寝ている。


「レイナ、ご飯だよ」

「レイナ」


 私たちが見ていると、のっそりと起き上がる。

 顔をこちらに向けているが、認識していないのか薄目だ。


「あれ、昨日も来てたよね。なに?」

「分かってるでしょ」

「ご飯食べながら、話そう」


 一緒に食事をしながら、話すのは今日の予定だ。

 叔母さんは、気にせず私たちの分の夕飯も用意してくれるから、こういう時にはとても助かる。


「それで、今日も20時からゲームするんだっけ?」

「うん」

「私たちも一緒にしようと思ってるんだけど、いい」

「ダメ」

「何で?」

「今日は向こうも疲れているから、そこそこで済ませるつもりだから」

「それなら、オフライン合戦しよ」

「それなら、いいんじゃない?」


 妹も乗り気になっているが、レイナは嫌そうだ。

 ただ、私たちには強力な助っ人がいる。

 叔母さんだ。


「ちょっとレイナ。そんな邪険にしなくてもいいじゃない。わざわざ会いに来てくれたんだから」

「ちょっと考えるから」


 そう言って、食事を終えて食器を洗いに行くレイナ。

 私たちは今日、叔母さんの家に泊まる予定だから、いつでも質問できる。

 『考えて、どうなった?』『20時からだけど、どう?』時間が近づけば、上手くいきそうだ。


 それからレイナの部屋で、答えを待ち続ける。

 20時になり、何か行動を起こすかと思っていたが、何もしない。


「レイナ。相手も困るんじゃない?」

「明日、学校で謝るから大丈夫」

「へー。そう」


 スマホで読書を始めるレイナ。

 しかし、レイナのスマホが振動し、音が鳴る。

 電話だ。

 レイナが電話に出た瞬間、妹がスピーカーボタンを押す。


『もしもし、今日は無いんだよな?』

「あるよー」

『え?』

「あるからー」

「招待送りますから、待っててください」

『はい』


 レイナが急いで電話を切ると、キッと妹の方を睨みつける。

 私の方も見てきた。


「私がカイラルする時、絶対手伝って!」

「りょうかーい」

「まかして」

「そもそも、2人も一緒にゲームするつもり?」

「ダイジョブ、ノートPC持ってきてるから」

 

 3人でログインして、噴水広場で待ってると薄汚れたギャンベゾンを着た傭兵が現れた。

 体から覇気が奪われたような男だ。


「あ、ホークさん。今日はこの2人も参加します」

「この前、電話してたのがホーク?」

「そうです。自己紹介してください」


 レイナが話をしているけど、ですます言ってるの違和感がすごい。

 そういう子じゃないでしょ。


「マウント・ホークです。よろしく」


 自己紹介したのに、カイラルの名前言ってくれなかった。

 カイラルしてるの知ってるから、言ったのにどうにかしてID番号知らないと、フレンド検索できない。

 一応、これからの繋がりのためゲーム内でのフレンド申請を送っておいた。

 割と早めに承認された。


「それでヒル、これから何するんだ?」

「合戦です」

「また?」

「今回はオフライン合戦です」


 ほう、オンライン合戦したんだ。

 公式にアーカイブ残ってるだろうから、後で見よう。

 妹の方を見ると、同じことを考えていたみたい。


「ホークはさぁ、ヒルとこれからもゲームするの?」

「障害物競走の練習が終われば、しなくなると思う」

「それってちょっと薄情じゃない?」

「そうか。むこうも俺に22000円使わせて、カイラル第3陣のチケットが欲しいんだぞ」


 私としてはもうちょっと、面白そうな話が欲しいんだけど。

 そんな感じ全くないじゃん。

 何だったら、嫌がってる。


「カイラルで一緒にゲームすればいいじゃん?」

「サーバー決められてたけど?」

「第3陣は偏りがない限り、自由だけど」

「えぇ⁉」

「まあ、問題ないでしょ。私たちはレセプトだから、ヒルと一緒にゲームしないなら、そこに来てもらうけど」

「へぇー」


 反応が鈍い瞬間は所々あるけど、何か気にしてそうなってるのかな。


「ちょっと、ほんとにダイジョブ?」

「ホークさん」

「冴えないな、ホーク」


 開始早々、ラッパ音と共に降り注ぐ矢の雨を防ぐことすらしない。

 これは、想定と真逆だ。

 レイナが即戦力と判断したのは、ここまで反応鈍いのだったとは。

 

「ホーク、全然じゃん」

「多少マシくらいだと思ってたんですが」

「オンライン合戦の所為だ。俺もう寝るから、バイバイ」

「朝練ありますからね」

「ああ」


 逃げるように帰って行ったホーク。

 一応、レイナも擁護していたけど、しきれないくらいには問題だった。


「レイナ、オンライン合戦はいつしてたの?」

「えーっと、15時から」

「レベルは?」

「30とか言ってたかな?」

「ふーん。それじゃ、戻ろっか?」


 時刻は22時。

 リビングで妹と一緒にレイナの言っていた、オンライン合戦のアーカイブを探していた。

 そしてそれは、すぐに見つかる。そのまま、妹と一緒に見た。


「へー。やるじゃん」

「いや、そうだけど。これって⁉」

「そうかもね。ちょっと調べる」


 あの動き、必殺技の再現をしてる。

 『武士道 ウェポン』には武器毎に必殺技、ウェポンアーツ『WA』があった。

 初期からある武器、打ち刀のWAがホークの動きと一緒だ。多少の違いはあるが。

 対戦中はWAを出すと、体が操られて最初から最後まで既定の動きを続ける。


 避けられたが最後、勝手に動く体を攻撃され続けて体力を減らされ、負けが近づく。

 だから、ある程度以上の腕を持つ人たちは、WAの動きを真似して隙を誘う。


 操られていると思って攻撃すると、避けられ切られることになるのだ。

 そして、私たちはそれをできる奴を知っている。

 スマホに保存していた動画から、ある動画を表示して妹に見せる。


「これでしょ?」


 私が見せたのは、レイナとその知人、対、私と妹『武士道 ウェポン』のタッグマッチだ。

 妹がスクロールバーを動かし、最後の方にする。

 私とレイナが相打ちで倒れ、妹と知人の1対1。


 妹の大太刀の攻撃が避けられると、残り体力を削るWAの動き。

 それをWAだと思い、切られながらも妹は大太刀を振り下ろす。

 しかし、再現だったため大太刀を避けられる。

 最後、水月に突き。

 通常は抜いて残心なのだが、刺さったまま頭まで切られマッチが終わる。


「『勝者。サッカリン・汗擂るふぁむ系』コイツだよ」

「ホント? 偶然が過ぎると思うけど」

「これから、確かめていけばいいの」

「なら、レイナにはバレないようにしないとね」

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VRMMOと他ゲーと現実 アキ AYAKA @kongetu-choushiwarui

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