第37話

 

 霊体となった委員長の表情は見えないが、疲れた笑いをしてそうだ。

 2人して姉妹を見に戦場を移動する。

 カモと京は、異常に動きが良い。


 2剣使いのカモは、1対多数の立ち回りがうまい。

 ゴツイ鎧にスティレットの京は、1撃で体勢を崩して姉のもとに敵を投げている。


「2人とも上手いな」

「そうですね。京は戦闘苦手と言っていますが上手いです」

「カモは?」

「家鴨は異常に上手いですね」

「俺は?」

「そこそこですね」


 ノリで言ってくれると思っていたが、そういう訳ではないようだ。

 2人でボーっと戦闘を見ていると、指揮官にたどり着いていた。

 随分と速いな。


 そう思っていたのだが、メニューを開くと20時40分。

 どうやら、20分経っているようだ。

 やはり疲れから体がおかしいようだ。

 今日はもう、ゲームできないな。


 楽しくゲームできるほど、元気がない。

 20時45分、まだ聞こえないラッパの音が鳴ったようで合戦は終了。

 リザルトを確認することもなく、噴水広場に戻ってきた。


「ホーク、全然じゃん」

「多少マシくらいだと思ってたんですが」

「オンライン合戦の所為だ。俺もう寝るから、バイバイ」

「朝練ありますからね」

「ああ」


 どうしようもない疲れが、眠気を後押ししている。

 ログアウトをして、VR部屋に戻ってきた。

 VR機の電源を落とそうとしたのだが、落としたのか。

 知らぬ間に眠った。


『起きてください、起きてください』


 マイカ2の機械音声に気付き目を開けると、VR部屋のベンチで寝ている俺。


「あれ、6時半?」

『はい、朝練の時間ですよ』

「ぐっすりだったな」


 金曜日、準備を終えて学校に到着したのが、7時25分と少し遅かった。

 相変わらず教科書を読んでいた委員長と朝練をし、教室に戻ってきたのが8時45分。


 委員長と一緒に戻ってきたのだが、入ると同時に異様な空気を感じ取った。

 そう、今までは俺が入って来ても数人が顔を上げて認識、元に戻るという感じだ。

 しかし、今は名前も知らないクラスメイトが俺を見ている。

 その異様さに足を止めてしまい、委員長に靴を小突かれた。


「鷹峯さん」

「悪い」


 努めて気にしないようするのだが、視線は俺を追っている、気がする。

 自意識過剰か?


「鷹峯くん、何かおかしいと思わない?」

「さあ?」


 赤沢が話しかけてきたことは、おかしいな。

 そう言いたかったが、周囲の雰囲気の呑まれて、とぼけることしかできなかった。

 赤沢の背後には委員長が近づいている。


「赤沢、何があったんですか?」

「え、何って?」

「近藤さんから、赤沢に話を聞けと言われましたが」

「そうなのか、2人ともON存で検索してくれ」


 マイカ2が検索すると、剣武会の時に動画を上げていた人が、また新たな動画を上げていた。

 合戦の切り抜きで、俺が叫んでから突撃、戦闘までの5分の動画だ。

 1番上に出てきたから、赤沢はこれについて言っているんだと思うが。


「これがどうしたんだ、赤沢」

「これで、こうなってるんだよ」


 俺に向けて両腕を広げて見せてくる。

 クラスメイトの現状を言っているのだろう。

 ただ、よく分からない。


「どうして、これで、こうなるんだ?」

「あの、鷹峯さん。普通の人基準では、あなたはVRゲームが物凄く上手い部類に入るんです」

「上手いと、こうなるのか?」

「散々実践学習を拒否していた人が、想像以上に上手かったから、こうなっています」


 どういう感情か、分からん。

 馬鹿にしていた奴だったから見てるのか、案外やるじゃんで見てるのか。

 よくやっている認めてやろうなのか。


「それは、良いことなのか?」

「良いことだと思います。ただ、私からするとそんなもの関係ありません」

「と、言うと?」

「私にとっては、カイラル第3陣先行プレイチケットが手に入らなければ、意味がないからです」


 上手い下手に関わらず、カイラルできなかったら俺は無意味だと言いたいのか。

 相も変わらず厳しい。


「そういうことだ、鷹峯くん」

「どういうことだよ?」

「まずはクラス選考を通過しよう」

「いつだった?」

「ちょうど来週、実践学習の時間だよ」

「言ってたような、気がする」


 苦笑いな赤沢と委員長。

 周囲のクラスメイトも、生暖かい視線を向けてくる。


「頼むよ、鷹峯くん」

「ゴメンて」


 予鈴が鳴り、視線と委員長たちから解放された俺は課題を始める。

 しかし、それを誰かが邪魔してきた。


「鷹峯くん」

「うん?」


 前の席に座っている、男子。名前は知らない、が話しかけてきた。

 細身の男で運動が苦手そうに見える。VRゲームの腕は、そこそこだろう。


「聞きたかったんだけど、いつからVRしてるの?」

「ゲームセンターで出た頃から」

「実はね、トライリッターぼくもしてるんだけど、戦闘が下手で」

「ああ」

「戦闘のコツとかってある?」

「練習」

「やっぱりそうか。実はトライリッターよりも戦闘が楽で、派手で面白いゲームがあるんだけど、一緒にしない?」


 コイツは、俺に何をさせたいのか?

 一緒にゲームするだけで、満ち足りる関係性を俺は知らない。

 あると思っているが、俺とコイツではない。


「あれだ。委員長と連携練習でトライリッターしてるから、委員長を説得してくれればする」

「委員長? あー、坂下さんね?」

「そうそう、坂下……あ?」


 そういえば、委員長の下の名前って何だっけ?

 俺がどれだけ、人に興味がなかったか、今初めて自覚した。

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